研究課題/領域番号 |
24650075
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
黒岩 眞吾 千葉大学, 融合科学研究科(研究院), 教授 (20333510)
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研究分担者 |
堀内 靖雄 千葉大学, 融合科学研究科(研究院), 准教授 (30272347)
市川 熹 千葉大学, 融合科学研究科(研究院), 名誉教授 (80241933)
菊池 英明 早稲田大学, 人間科学学術院, 教授 (70308261)
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キーワード | 音声学 / 話者交替 / 対話機能獲得 / 非母語話者 / プロソディ / F0モデル |
研究概要 |
昨年度収集した母国語話者・非母国語話者間の対話データの分析を進めるとともに、MaptaskKIDS(エジンバラ大学の地図課題を参考に千葉大で子供向けに開発した課題による子供⇔成人の対話データ)の書起こし及び対話交替時間を分析可能な時間ラベリングを行い対話コーパスとして整備した。また、並行して先行する文系の研究(社会言語学や認知言語学)の学説を調査した。これらの学説では話者交替の予告は「統語的情報」等の言語レベルの情報が候補として示されている。しかし、我々の実験・分析結果からは”学習成績の良い非母語話者”が「統語的情報」を発信しているにも関わらず、受け手の母語話者は話者移行的確場(TRP)の対の拘束(TRP制約と略す)は見られない。これは、「統語的情報」は予告情報を発信しておらず、母語話者では「統語的情報」の裏に伴う「プロソディ」により予告していると解釈される。 母語話者がプロソディによる話者交替予告とTRP制約を獲得する時期を調べるために、母子の対話コーパスの調査を行った。幼児3歳半まで収録されていた先行研究のデータでは、子ども⇒親の話者交替ではTRP制約の傾向が観察されたが、親⇒子どもでは見られず、TRP制約は獲得されていないと思われた。そこで5~6歳の親子の対話データのコーパス(MaptaskKIDS)の整備を進め過去に収集した48対話(全データ)のアノテーションを行い調査を開始した。 対話データのアノテーションを効率良く行うために音声の重なりにも対応できる話者インデキシング手法、分析を補助するためのF0モデルパラメータ自動抽出手法を検討した。また、文献等の調査により母語話者と非母語話者の識別にプロソディが有効であことがわかった。手話対話における非手指動作であるうなずきの分析も実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
データの収集、分析、モデル化等、概ね順調に進展しているほか、実験結果の再検討等の結果、新たな研究課題として、母語話者の心的負担を軽くしている可能性を示す構造が浮上している。 (具体的理由) ・前年度の結果の解釈を補強するために、先行する文系の研究(社会言語学や認知言語学)の学説を調査した。これらの学説では話者交替の予告は「統語的情報」等の言語レベルの情報が候補として示されている。しかし非母語の学習成績の良い非母語話者は「統語的情報」を発信しているにも関わらず、受けての母語話者はTRP拘束は見られない。これは、「統語的情報」は予告情報を発信しておらず、母語話者では「統語的情報」の裏に伴う「プロソディ」により予告していると解釈される。 ・母語話者がプロソディによる話者交替予告とTRP(話者以降的確場)の対の拘束(TRP制約と略す)を獲得する時期を調べるために、母子の対話コーパスの調査を行った。幼児3歳半まで収録されていた先行研究のデータでは、子ども⇒親の話者交替ではTRP制約の傾向が観察されたが、親⇒子どもでは見られず、獲得されていないと思われた。そこで5~6歳の親子の対話データのコーパスの整備を完了した。また、同コーパスを用いて、IPU開始終了時刻を対象に、10人の話者の重複分布を調べた(本格的な分析は来年度実施)。 ・重なりを含む対話データの自動ラベリング手法、手話におけるうなずきの分析など周辺領域での計画もほぼ予定通り進行している。
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今後の研究の推進方策 |
具体的な研究内容を(1)~(7)に示す。(1)今年度整備した、MaptaskKIDSコーパスを用いて5~6歳児の母子の話者交替の分析を進め、TRP制約の獲得時期の解明を試みる。(2)日本語数字読み上げデータを対象に母語話者・非母語話者の自動識別に有効な音声パラメータ(特にプロソディ情報を中心に調査)を調査する。さらに、対話データで同様な実験を行うことで話者交替予告に使われている情報が明らかになると期待される。(3)遺伝的アルゴリズムを用いたF0モデルパラメータ自動抽出手法の精度向上を目指す。(4)隣接研究領域である動物の能力獲得に関する脳科学の研究成果を調査し、母語の獲得プロセスと心的負担を軽減する構造を探索する。動物の各種「臨界期」(「感受性期」)の解明は、ヒトの言語の獲得と共通の構造が示唆されており、音声特性から自閉症を早期発見する手掛かりにもつながる可能性が存在する。(5)手話対話における話者交替の検討を進めるために手話における非手指動作の分析を進める。(6)Final lowering(平叙文末尾で F0 が局所的に下降する現象)は話者交替とは直接因果関係がないものと判断されるので、余裕があれば検討を行う。(7)対話音声分析を効率化するツールである音声の重なり区間を含む対話音声の話者インデキシング手法の精度及び頑健性の向上を図る。 上記に示した、各研究項目の成果を国内外の学会で積極的に発表して行くとともに、整備したアノテーション情報については公開も検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
発表予定だった国際会議論文及び雑誌論文がリジェクトされてしまったため、次年度に発表をおこなうこととしたこと、及び、MaptaskKIDSのアノテーションに時間を要し、本格的な分析に着手できなかったため。 研究成果を国際会議論文として投稿しており、その出張費及び参加費として使用する。また、日本音響学会、人工知能学会、電子情報通信学会の研究会・シンポジウムでの成果発表を行う。また、MaptaskKIDSの分析を謝金にて実施する。
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