研究課題/領域番号 |
24650081
|
研究機関 | 福井大学 |
研究代表者 |
森 幹男 福井大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (70313731)
|
キーワード | 補聴器 / 骨伝導 / インプラント |
研究概要 |
1.骨伝導振動子のインプラント化に関する基礎的研究 骨伝導振動子を歯の表面に当てて歯を横方向に加振する場合(横加振)と歯の噛み合わせ面に当てて歯を縦方向に加振する場合(縦加振)とで聴感特性を比較した。その結果,ある被験者では2kHz以下で縦加振の方が高感度,逆に4.5kHz以上で横加振の方が高感度となることが分かった。この傾向は,被験者によって異なり,利用者に合わせて使い分ける必要があることが分かった。 2.体外に携帯する本体と口腔内に装着する補聴器を結ぶ無線技術の研究 体外に携帯する本体と口腔内に装着する補聴器との間の人体通信による無線化を検討した。H24年度は腕に取り付けた電極と歯に取り付けた電極との間を人体通信で無線化したが,H25年度は腕に取り付けていた送信電極を乳様突起に取り付けることによって単語了解度が向上し,伝送損失が約3dB改善されることが分かった。 3.気導音と骨導音の時間分解能の比較 骨導音の音質が気導音に比べて劣る原因として,(周波数特性ではなく)時間分解能に着目し,骨導音の時間分解能を主観評価実験で調べた。その結果,両耳聴取による時間分解能改善効果が,気導音の場合と比較して骨導音の方が大きいことが明らかとなった。このことから骨導補聴器における両耳聴取の有効性が示唆される。 4.語音聴力検査による骨導音と気導音の単語了解度の比較 骨導音の気導音に比べ音質が劣ることや,音が大きく聞こえないことなどの問題点を,骨導音受聴時に周囲の気導音が聞こえることによるS/N低下に起因していると考え,耳栓を用いて気導音を遮断した状態での骨導音の単語了解度を語音聴力検査によって気導音と比較した。その結果,今回の実験では気導ヘッドホンを用いた場合と比較して,耳栓をした状態で骨導ヘッドホンを用いた場合の方が,単語了解度が高くなることを確認した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
骨伝導に特化した補聴器回路の開発においては,周波数特性を骨伝導に最適化した補聴器回路の設計・開発を目標としていたが,平成24,25年度は増幅回路のみ試作し,周波数特性(利得)の補正についてはソフトウェアで実装して実験を行った。受聴感度の高い骨導音付加ポイントを特定するために歯の4か所で検知限電圧の測定を行った結果,受聴感度の高い付加ポイントは上の第一大臼歯と下の中切歯である被験者が多いことが分かった。また,付加ポイントを上の歯とするよりも下の歯の方とした方が,高い受聴感度が得られるという結果となった。さらに,それぞれの歯には共振周波数があり,その周波数は人によって異なることが分かった。このことから,使用者の共振特性を調べ,それに応じて利得補正を行うことが必要であることが分かった。 当初の予定にはなかったが,気導音と骨導音の時間分解能を比較し,骨導補聴器における両耳聴取の有効性が示唆される結果が得られた。また,平成25年度は,骨導音の気導音に比べ音質が劣ることや,音が大きく聞こえないことなどの問題点を,骨導音受聴時に周囲の気導音が聞こえることによるS/Nの低下に起因していると考え,耳栓を用いて気導音を遮断した状態での骨導音の単語了解度を語音聴力検査によって気導音と比較した。その結果,気導ヘッドホンを用いた場合と比較して,耳栓をした状態で骨導ヘッドホンを用いた場合の方が高い単語了解度となった。このように骨導音の有効性が示唆される結果となった。 これらのことなどを考えると,達成度としてはおおむね順調に進展しているといえる。
|
今後の研究の推進方策 |
平成26年度は,平成24年度・平成25年度に得られた結果を基にして,以下のことに取り組む。 1.周波数特性を骨伝導に最適化した補聴器回路の設計・開発を行う。周波数特性(利得)補正に対する評価は,引き続き,細かくコントロールできるソフトウェアで実装して行う。 2.体外に携帯する本体と口腔内に装着する補聴器を結ぶ無線技術について引き続き詳細な実験・検討を行う。 3.これまで骨導音の時間分解能について調べてきたが,語音聴力検査を行い,単語了解度向上を図れるか検討する。 将来的には,インプラント人工歯やブリッジタイプの口腔内装着可能な補聴器の実現を目指す。
|
次年度の研究費の使用計画 |
年度末の出張経費等を自己収入の研究費でまかなったことが主な理由である。これは最終年度となる本年度必要となる消耗品として使用する予定である。 本年度は得られた結果を取りまとめ,成果発表を行い,学術雑誌への論文投稿も行う。そのための旅費・論文投稿費用が必要となる。
|