研究課題/領域番号 |
24650091
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
高野 渉 東京大学, 情報理工学(系)研究科, 講師 (30512090)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 行動モデリング / 自然言語理解 / 知能ロボット |
研究概要 |
言語は有限の語彙を組み合わせて無限の意味表現を生み出す機能と,無限の意味を文法という規則を通じて効果的に伝達する機能を兼ね備えた記号システムである.本研究課題では,この言語が持つ特徴を生かして,多様の運動を言語として理解し,言語から多様な運動を創造するロボットの知能情報処理を構築することを目的とする.これを実現するために,平成24年度の研究計画には,(A)身体運動および運動を取り巻く環境知覚の記号化(B)身体運動・知覚・言語表象の関係性を表現する数理モデルの構築(C)記号を修飾する作用素を抽出する技術 の開発項目を挙げていた.各項目における研究成果を以下にまとめる. (A)人間の全身運動および筋活動度をモーションキャプチャシステム・筋電位センサ・力センサを用いて計測する.34個の身体部位の表層的な動きと1190個の筋肉の体性感覚情報から構成される時系列データを統計モデルのパラメータとして学習する枠組みを構築した.これは,運動の連続値情報がモデルパラメータに記号化されたことを意味する. (B) 身体運動感覚の記号間の距離を統計モデル間の非類似として計算し,この距離情報から645個の記号を空間上の点に布置した記号空間を構築した.また,運動に付与された243種類の言語ラベルを特徴ベクトル化することで言語表現を空間上の点に対応付けた言語空間を構築した.正準相関分析によって,記号空間と言語空間の相関が最大となるように両空間を線形変換した新たな記号空間・言語空間を形成した.言語表現を記号空間に写像することによって,言語から運動を生成することが可能となった.また,言語表現を組み合わせて新たな運動を連想することも可能となった. (C)上述の記号空間上において,2つの運動間を結ぶベクトルがそれら運動間の差異を表す.この記号空間上のベクトル表現として,運動を他の運動へ修正する作用素を抽出した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度の開発項目(A)身体運動および運動を取り巻く環境知覚の記号化 (B)身体運動・知覚・言語表象の関係性を表現する数理モデルの構築 (C)記号を修飾する作用素を抽出する技術について,以下のように研究進捗を評価する. (A)知覚情報として環境の色・深さ情報を運動モデルに組み込む必要がある.色・深さ情報から環境を分節化・分類する計算の枠組みを構築した.しかし,多種多様な物体を高精度・高速で分類する技術までには至っていない.環境知覚のモデル化に関して,やや進捗が遅れている.しかし,物体を分類する計算の高精度化は,多くの環境情報を取得して学習データを増やし,汎化性能を向上されることで可能である.また,物体の学習や分類の計算は,容易に並列化処理することができる. (B)身体運動と言語表現の多次元空間上の幾何学に着目して,その間の相関性が高くなるように運動と言語の空間を修正して再形成する手法を確立した.これは当初平成25年度の開発項目であった運動・知覚・言語を繋げる数理モデルが実現されるに至っている. (C)身体運動を空間上のベクトルとして表現し,運動間の差異を各運動に対応するベクトルの差分として抽出することが可能になった.このベクトルの差分を分類する数理モデルを実現することで,言語と運動の作用素が結びつく段階までに迫っている. 以上のように,運動を取り巻く環境情報を運動知覚として統合する計算の開発にやや遅れているが,運動と言語表現を繋げる技術の開発が予定より進んでいることを考慮すると,おおむね計画通りに研究は進展していると評価できる.
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今後の研究の推進方策 |
言語を使って多様な運動を理解し,新たな運動を創造するロボットの知能を構築するため,平成25年度では以下の研究開発課題に取り組む. (A)身体運動および運動を取り巻く環境知覚の記号化:身体運動を取り巻く環境から色・深さ情報を計測し,環境中から運動と相関の高い特徴を抽出する技術を開発する.抽出された環境の特徴量を分類する計算法を開発する.これまでに広く研究されてきている物体認識アルゴリズムから,本研究課題に最適な手法を選定し,修正を加えることで実現する.これは,運動時における人間のアテンションを推定する技術に繋がる. (C)記号を修飾する作用素を抽出する技術:運動間の差異は,運動を空間に配置した点の間のベクトルとして表現された.このベクトル表現を分類する計算法,およびベクトルの分類結果と副詞に代表される言語表現の間を繋げる数理モデルを開発する. (D)多様な言語表象から身体運動と近くを生成する計算手法:副詞表現を運動空間のベクトルへ変換する.この変換は(C)の数理モデルを用いることによって行う.そのベクトルに従って運動を修正することで,多様な言語表現に対応した動きを生み出すことが可能となる. (E)多様な身体運動と知覚から言語表象を生成する計算手法:計測された身体運動・環境情報を運動空間の点へ写像する.その点の近傍の運動およびそれらの差を表すベクトルを計算する.これら運動とベクトルを(C)のモデルを通じて言語表現へ変換する.このようにして,身体運動を言語表現として理解する計算法を設計する.
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次年度の研究費の使用計画 |
該当なし
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