研究課題/領域番号 |
24650127
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研究機関 | 東京都市大学 |
研究代表者 |
岡部 大介 東京都市大学, 環境情報学部, 准教授 (40345468)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | ファンダム / エスノグラフィ / つくること / 主体 / ネットワーク / ファン資本 |
研究概要 |
本研究では、ファンダム(アニメ、漫画、スポーツなどの熱心なファンによって形成された趣味のコミュニティや文化)に見られる、モノを「つくること」を中心とした活動に着目し、日米を中心としたアニメファンによる非商業的な文化的実践の生態系を記述した。アニメコンテンツは、様々な言語に翻訳されている。この翻訳作業を献身的に実施しているのは、熱狂的な国内外のファンダムである。彼らは受動的にコンテンツを視聴するだけではなく、映像クリップをリミックスし、私的に、または趣味縁で繋がるニッチなグループの間で流通させる。それは生産を伴う消費スタイルであり、いわば「プロシューマー」の実践である。 特に、Engestrom(2009)の言う「野火」のように拡がる活動に焦点をあて、日本と米国におけるエスノグラフィを中心に、今日的なファンコミュニティにみられる制作活動のありようを詳細に記述した。加えて、ファンダム特有の「つくること」を通した活動の意味について、インタビューを通して定性的に分析した。 今年度は、そのような「つくること」自体が、主体にどのように作用するかについて、また、モノを「つくること」を通して主体がどのように他者とのネットワークを形成していくかについて、スポットインタビューとインデプスインタビューから得られたデータをもとにSCAT(Steps for Coding and Theorization)を用いて分析した。大谷(2008)によれば、SCATは、比較的容易に着手し得る質的データ分析のための手法としてその有用性が確認されている。その結果、(1)自分たちでモノをつくりあげるDIY 精神が、動機や欲求という主体なことがらとどのように作用するかについて、さらに(2)主体間の「『ファン資本』の編み上げ」を通した、「つくること」に対する欲求の可視化について示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、ローカルなコミュニティどうしの、いわば「地下茎(リゾーム)」のようなつながりや活動を主な 研究対象とするため、量的な調査方法を用いることが難しい。非商業的な現代のメディア消費の状況を分 析対象とする場合は、ネットワークのノードやハブとなるような調査対象者に焦点をあて、そこから多様な つながりや用いられているメディアを調査対象とする必要がある。 そのため本研究では、日本と米国で若者や子どものメディア利用に関するエスノグラフィを実施している研究者の協力を仰ぎ、実践コミュニティのネットワークへ参与する土壌を形成してきた。米国の研究協力者との情報交換やディスカッションにより、理論的観点の深化がはかれた。 データ収集に関しては、日本国内の調査対象者に対するインタビューが滞りなく進んでいる。11名の調査対象者にアクセスすることができ、インデプスインタビュー、また、シャドウイング(同行調査)ができている。一方で、米国においては、限られた調査期間の中で、研究協力スタッフ3名とともに実施したスポットインタビューを中心にデータ収集につとめた。約30名へのスポットインタビューが実現できた。今年度は、これに加えて、アニメファンがどのように日本のメディアコンテンツに接しているかについて理解するために、オンラインコミュニティへの参与観察を実施する。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、初年度に引き続き、日本国内と米国におけるアニメファンコミュニティにおけるエスノグラフィを通したデータの蓄積を継続する。それとともに、得られたデータをトランスクリプト化し、SCATを用いて分析する。SCATは、自由記述やスポットインタビューで得られたような短いインタビューにも適しているため、この手法を採用する。資料整理の際は、大学院生2名の調査補助者にも協力を依頼する。24年度の成果をまとめることを通して、国内外の学会にて発表を行う。なお、25年3月に国際学会で発表し、現在、結果の一部を学会誌に投稿している。 平成25年度は、特に「つくることを通した価値形成」と、Wenger(1990)が重視する「実践のコミュニティへの参加とアイデンティティ形成」、Holzman(2008)の述べる「パフォーミングとアイデンティティ」に関するデータ収集と分析に注力する。 研究計画を遂行するための研究体制本研究を遂行する上で、米国におけるインタビューや参与観察の調整と交渉が課題の1つとなる。円滑にすすめるために、カリフォルニア大学アーバイン校の伊藤瑞子氏と連携し、研究を進めていく。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度は、多少の残額が生じたものの、ほぼ全額執行することができた。 平成25年度も、予定通り執行し、計画通り研究を進める予定である。
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