研究課題/領域番号 |
24650130
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
佐藤 隆夫 東京大学, 人文社会系研究科, 教授 (60272449)
|
研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
|
キーワード | 視覚 / 奥行き知覚 / 陰影 / 自己運動 |
研究概要 |
本研究の基本的な目的は,陰影からの奥行き知覚における自己運動の役割のを明らかにすることである.陰影からの奥行き知覚は,光源位置が未知であれば答えは出せないはずである.運動視差の場合も映像のカメラの動きが未知であれば,同様に解は不定になる.しかし,自らの頭を動かすと,即座に強固な奥行き印象が生じる.つまり,視覚系は頭部の運動と網膜像の変化を即座に結びつける能力を持っている.本研究は,同じことが陰影からの奥行き知覚についても成立するかどうかを検討することを目的とする.より具体的には,実際の物体の前で,懐中電灯を振り回しながら観察すれば,一意な奥行きが得られるかどうかを明らかにすることを目的とする.そこで,今年度は,その前提として,能動的な動作が無い状態で陰影に時間変調を加えた場合の知覚の様態を精密に測定することを試みた.その結果,陰影に時間変調を加えると,時間変調の周波数に応じて,立体形状の変化の知覚,照明方向の変化の知覚という二種の知覚が成立することが明らかになった.対象となる物体の形状にも依存するが,一般的には,1Hz以下の非常に低い時間周波数では形状変化が,それよりも高い周波数,おおむね2Hz程度までは光源移動が知覚され,さらに周波数が高くなるとフリッカーが知覚されることが明らかになった.陰影の時間変調に関する研究はこれまでもほとんど例が無く,この結果はきわめて新規性の高い知見である.この結果はバーチャルリアリティー学会に論文として発表した.これに加えて,能動的な自己運動の効果の予備評価のために,立体物を手に持ったレーザーポインターで能動的にスキャンした場合の立体形状の弁別に関する実験を行った.この結果は,こうした事態では,立体物の知覚はかなり難しいが,学習を行わせることにより成績の向上が認められるという結果を得た.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
実績の概要でもふれたように,本年は陰影の時間変調による知覚の変容に関して,興味深い結果が得られたため,その検討に力を注ぎ,本来の目的である自己運動の効果に関する検討は,点光源による照明の効果に関する検討に留まった.また,当初,予定していた位置制御装置の試作も仕様の策定に時間をとられ,完成には至っていない.
|
今後の研究の推進方策 |
昨年度,仕様の策定に留まった位置制御装置を調達し,陰影からの奥行き情報が観察者自身の手,もしくは頭の情報を網膜情報の変化と結びつけ,運動視差と同様に一意な奥行きを得ることが出来るかどうかを検討する実験に着手する.そのために,光源を手に持たせ,もしくは頭部に固定し,冒頭の図のような凹面,もしくは凸面の実物刺激を単眼で手,または頭を動かしながら観察させ,その時の奥行き判断(凹凸判断)の正答率を測定し,光源運動が未知な場合との比較を行う.その際,意識的な推論を避けるため,光源の点灯時間を制限する,また反応時間も測定し,運動視差の結果と比較を行う.
|
次年度の研究費の使用計画 |
昨年度,購入予定であったが,仕様の策定に留まり,購入には至らなかった位置制御装置を購入する.また,立体刺激の試作を行う.
|