運動視差の場合,映画などの映像では解は本質的に不定であるが,自らの頭を動かす場合には,即強固な奥行き印象が生じる.つまり,視覚系は頭部の運動と網膜像の変化を即座に結びつける.本研究では,同じことが陰影からの奥行き知覚についても成立するかどうかを検討した.懐中電灯を振り回しながら観察し,手の運動が既知であれば,一意な奥行きが得られるか否か検討する.こうした目的の下,本研究では,当初計画されたものとして,大きく二つの実験を実施した.第一の実験は,手に懐中電灯を持って,対象物を照らした時,陰影からの奥行き知覚が一意となるか否かを問う実験である.この実験では, CRT上に二次元的な陰影画像を提示したが,手の動きに応じて,手に持った懐中電灯からの照明による陰影の変化に応じた刺激変化がCRT上の刺激に与えられる.実験では,能動光源可視,能動光源不可視,受動光源可視,受動光源不可視の4条件を設けた.能動条件では観察者が能動的に手を動かすが,受動条件では実験者が観察者の手を取って動かす.また可視条件では,手に実際に懐中電灯を持たせ,それを観察者は見ることができるが,不可視条件では懐中電灯を持たせない.全体的な傾向としては,こうした動的な刺激では静的な刺激に比べ,優れたパフォーマンスが得られ,また,能動条件は受動条件よりも,可視条件は不可視条件よりも優れたパフォーマンスが得られた.しかし,結果は非常に個人差が大きかった.もう一つの実験は,レーザーポインターを模した点光源の軌跡が立体的な対象物上を動く際に,その視覚情報から奥行き形状を知覚することが可能か否かを問うものである.この場合,能動,受動の似条件を設けた.こちらの場合には,能動,受動の間に大きな差は認められなかった.しかし.能動条件で,1週間ほど被験者の訓練を続けたところ,早い観察者で3日後から有意な成績の向上が認められた.
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