大人は、他者の表情から、その人の現在の快、不快ばかりでなく、その人がどのような人かということまでも読み取る。本研究では、子どもがいつからこのようなことができるかについて検討を進めてきた。具体的には、次の3つの問いを立て、それを明らかにするために、乳児を対象とした実験を実施した。 (1)子どもはいつから、笑顔は異なる人が表出しても同じ笑顔だとわかる、というように、表情カテゴリーを同定できるのか。 (2)子どもは、他者が表出していた表情を、その表出者に対する好悪を決定する手がかりとするのか、するとすれば、いつからか。 (3)実際に乳児はその表情表出者のとりそうな行動について具体的な予測をしているのか、しているとすれば、いつから、どのような予測か。 これまでの研究で、(1)については、少なくとも生後4か月の子どもは幸福顔(笑顔)と怒り顔を、表出者が異なっても同定・カテゴライズできることが明らかになった。この知見をまとめた論文は、査読つきジャーナルに掲載された。また、(2)については、少なくとも6か月児は、以前に怒り顔をしていた人物より、幸福顔をしていた人物を選好する(ただし、4か月児については明確な傾向は見られず)という知見がえられ、その成果は国際学会で発表した。さらに(3)に関しては、10か月、14か月児を対象とした実験的研究により、子どもは、怒り顔の人物が他者を助けることはないと考えている一方で、どのような表情の人が他者の邪魔をするかということに関して、表情に関連づけた明確な行動予測はおこなっていないらしいこと、などが明らかになった。
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