本研究は,内的過程と外的過程が複雑に関係し合いながら芸術表現が創造されていく過程の解明を目指し,その第一歩として,心理・認知科学的手法と脳科学的手法を組み合わせて即興芸術表現が生成される過程の探索的な検討を目的とするものであった. そこで,まず実験計画を立て,ダンサー2名に対して予備実験を行った.予備実験では,2名のダンサーがソロとペアで即興的に踊った映像を撮影し,彼らにEEG装置を付けた状態でそれを視聴することを求めた.そしてソロとペアの脳活動の差異を見ることで,仮想的ではあるが即興的な表現を生成している際の脳活動の様子を検討した.特にペアでは,自分の踊りに加え,相手の踊りにも触発された複雑な認知過程が生じることが考えられた.この仮定通り,実際のEEGデータについても複雑な相関関係を示すものがみられた.これは即興芸術表現の複雑でダイナミックな過程について,脳科学指標を用いて検討出来る可能性を示した結果であると言える.なお,この予備実験に関しては, 2012年6月に筑波において国際学会の発表を行った. この結果を踏まえて実験計画や分析方法を修正し,2012年度末に3名のダンサーに対して本実験を行った.この実験では,自身の踊りと他者の踊りを視聴する状況を設定しており,内的過程(省察)を通して創造が生じる過程,外的過程(触発)を通して創造が生じる過程の両者を検討している.本実験については今後も継続を予定しており,被験者のダンサーのスケジュールを設定し,準備を進めているところである.
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