研究課題
本研究は,言語機能が未発達な乳幼児の脳活動を計測し,その脳活動から彼らの好みや意志を読み解くための技術を開発することを目的としている.乳幼児は,言語機能が未発達であり,自らの意志や好みを他者(特に近接性の低い他者)に伝えることが難しい.そのため,心理学的調査や医療検査などにおいて,彼らの心理・生理状態を把握することが困難な場合がある.本研究では,様々な対象を提示し,乳幼児の脳活動を非侵襲的な手法を用いて計測し,その情報を解析することで,彼らの意志を解読・推定する技術を構築することを目的とした.研究一年目の本年度は、装置を導入したのちに、主に2つの研究を実施した。1つ目は、どのような脳活動を用いるべきかという指標づくりである。このため、成人を対象にした意志や好みと関連する脳活動を近赤外分光法で検討した。具体的には、成人を対象に複数の飲料の写真を提示し、その際の前頭葉の活動を計測し、解析を実施した。その結果、成人の対象に対する好みの評定と、前頭葉の活動との間に関連が見られた。つまり、少なくとも成人の場合は、意志や好みが前頭葉の活動に反映されるのである。2つ目は、前頭葉の活動の利用方法の確立である。この目的のため、乳幼児と成人を対象にして左右の手の運動時の前頭葉の活動を計測し、前頭葉の活動からどちらの手を動かしているかを推定できるかどうかを解析した。その結果、成人においてはチャンスレベル以上の確率でどちらの手を動かしているかを推定できたが、乳幼児の場合はチャンスレベルと同程度であった。これらの結果から、前頭葉の活動を指標として用いることができること、成人においては前頭葉の情報を利用できることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
研究1年目ということもあり、脳活動を計測するための機器の導入に時間を要したが、機器導入後は概ね研究は順調に進んだと言える。具体的には、本研究の目的は脳情報から意志や好みを読み解くことが目的であるが、成人を対象にした研究において、意志や好みの情報と関連がある前頭葉の活動を計測することに成功した。現在乳幼児を対象に研究を進めているところであるが、同様の結果が得られるものと期待できる。脳情報の利用方法としては、成人と同様の脳情報の利用方法を試してみたものの、成人とは同じような結果は得られなかった。これは成人と同様の試行数や精度を得るのが難しいことに起因するが、乳幼児に適切な利用方法を用いれば、この点は解決することが期待される。
研究2年目は、上記で挙げたような点に留意しつつ、データを確実に蓄積することによって、乳幼児の好みや意志を理解するための脳情報の利用方法を考えていきたい。まず、乳幼児を対象にした場合、飲料やお菓子などの物理的な対象よりも、ヒトやアニメのキャラクターなどの社会的な対象を用いたほうが刺激として適切であると考えられるため、それらの対象を刺激として用いた際の前頭葉の活動を計測し、好みや意志などとの関連を計測する。これらのデータを取得できた後に、2種類の刺激を提示した際に乳幼児がどちらを好むかについて、脳活動から推測できるかを検討する。具体的には、好みや選択が分かれると考えられる2種類の刺激を提示した際の前頭葉の活動を計測・解析することによって、彼らの好みや意志を読み解く。
研究2年目は、上記で挙げたような実験を遂行するための人件費や謝金を計上する。また、調査の結果を学会で発表したり、解析方法について他の研究者から情報を得たりするために必要な旅費を計上する。さらに、実験遂行上必要な消耗品や書籍も計上する。
すべて 2012 その他
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件) 学会発表 (1件) 図書 (1件)
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