非流暢発話(吃音)が進展すると,発話と同時に四肢を動かすことによってブロックを回避する二次的行動が現れることがある.これは四肢の運動が発話運動に影響があることを示している.また,吃音話者に複雑な指回し課題を課すと,非吃音者と比べてパフォーマンスが低い.吃音者特有の脳活動を示す領域は,発話生成・知覚に関連する部分だけではなく,運動制御全般に関与する領域なども含まれることも考え合わせると,単に発話運動だけでなく,四肢も含めた運動全般の性質の違いやパフォーマンスの特異性に着目することは,非流暢発話のメカニズムの理解に寄与すると考える.そこで本研究では上肢運動と下肢運動に着目し,流暢な話者と非流暢な話者に対して脳計測時に発話・上肢・下肢を課す研究をデザインした.MRI環境では上肢運動の先行研究は多く存在するが,下肢運動は課題遂行が難しく,先行研究も少ない.そこでまず,MRI環境内で下肢運動が遂行可能な非磁性の装置を自作することから開始することとした.昨年3月までに完成した装置をその後MRI施設に持ち込んで,実際にMRI計測を実施した.まず画像への影響を確認するために,ファントムを入れた状態で計測し,画像に影響が無いことを確かめた.次に,20名の流暢話者に対して,下肢運動課題を課して装置が使用可能かどうかを確認する計測を実施した.現在データを解析中である.また,本研究で得た着想によって平成28年度開始の新たな科研費課題を申請した.28年度以降も引き続き本研究を継続したいと考えている.その他,遅延聴覚フィードバックによる発話への影響の程度と聴覚野の神経活動の関係について調査を進めた.結論はまだ得られていないが,この課題についても引き続き検討する.
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