研究実績の概要 |
当該年度は疾病発症過程のリスク因子を,数理モデルを用いて発生させた時空変動の数値データから抽出するとともに,心拍実データの環境揺らぎからも抽出する試みを行った.心筋の様々な数理モデルを用いて異なる疾患(LQT, SQT症候群)の興奮波の波形を再現することは空間1次元モデルでは可能であるが,空間高次元モデルでは興奮波伝搬パタンの多様性と波の不安定化が発生するため分類は困難であることが判明した.そこで,新しいリスク因子の発見と確率過程を用いた定量化に焦点を絞った研究を実施した. 主たる研究成果を列記する:①心室細動状態にある特異点の生成死滅過程の解析に於いて,右巻きと左巻きの特異点を区別したモデル化により相乗性雑音の起源が説明できブラウン運動と同様の長期記憶構造があることを発見した.② predator-prey 変数と確率複素Ginzburg-Landau 方程式を用いた空間2次元の興奮・抑制領域の拮抗を基礎としたリスク因子抽出法は広いクラスの数理モデルに適用できることを心臓疾患,神経疾患モデルを用いて示した.③Morris-Lecar ニューロンを大局結合した数理モデルを用い,抑制的大局フイードバックは系を興奮的な状態に誘導することを発見した.また,新しいリスク指標としてPragmatic Informationの確率過程が,空間依存動的情報抽出や確率分岐が内在する複雑系の情報圧縮に有効であることを示した.④心拍変動の実データから逆温度の確率過程を抽出し,健常者と疾患保持者の全てのデータを統一的に同定可能な確率分布を提案し,時間相関の緩和特性情報と組み合わせたリスク解析法を開発している.⑤空間1次元の複素Ginzburg-Landau方程式に於ける特異点(Hole)の速度揺らぎに内在する分布の厚い裾と長期記憶を伴う異常超拡散の存在を数理的に明らかにした(空間2次元ではHole は螺旋波の特異点に対応).
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