研究課題/領域番号 |
24650159
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
岡 浩太郎 慶應義塾大学, 理工学部, 教授 (10276412)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | マイクロデバイス / カルシウムイメージング / 微小環境制御 / 匂い刺激 / 行動観察 / 膜電位イメージング / 単一神経細胞情報処理 / 神経細胞破壊 |
研究概要 |
線虫において、特定神経細胞機能と行動との関係を定量的に調査するために、神経細胞機能をFRET型蛍光タンパク質センサーで調べ、また線虫をマイクロデバイス中で拘束した条件で行動指標を抽出するための新しい実験系の開発進めてきた。昨年度までに上記2項目に加え、非拘束系で自由行動下の線虫行動と神経活動を計測する系の確立に成功した。具体的には下記のような実績を挙げることができた。 ①蛍光タンパク質を用いた特定神経細胞活動の計測:マイクロデバイス中に拘束した線虫に対して匂い刺激を加えた際の介在神経細胞AIYの神経活動をカルシウムおよび膜電位イメージングで明らかにすることに成功した。また感覚神経細胞AWCに活性酸素種を発生させる蛍光タンパク質Killerredを発現させ、匂い感受性を即時的に破壊することができる新たな実験系の構築に成功した。 ②マイクロデバイス中での行動解析系の確立:線虫首振りを自由に行うことが可能であるマイクロデバイスを独自に開発した。このデバイスで線虫の背側・腹側に異なる濃度の匂い物質を層流として与えることができることを確認した。さらに線虫行動を自動抽出し、行動パラメータを連続取得可能なソフトウェアを開発した。 ③自由行動下の線虫行動観察系の確立:無拘束な自由行動下の線虫から特定神経細胞に対してカルシウムイメージングを行う計測系を確立した。その系を用いて介在神経細胞AIYについてカルシウムイメージングを行い、Ωターンと首振りに対応したカルシウムシグナルを取得することに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
①蛍光タンパク質を用いた特定神経細胞活動の計測については、従来細胞内カルシウム濃度変化がみられていないAIY神経細胞について、膜電位応答は細胞体でもみられることを世界で初めて明らかにすることに成功し、この成果は論文として出版されている(Shidara et al. 2013)。この結果は線虫単一神経細胞での情報処理を明らかにするための第一歩となるものである。またこのKillerredを用いた線虫感覚神経細胞の即時破壊技術についても現在投稿中で、レビュアコメントに対する対応を行っている(Kobayashi et al. 投稿中)。また感覚神経細胞について当研究室が開発した新規なcGMPセンサーを発現して、匂い刺激に対する応答計測を進めている。 ②マイクロデバイス中での行動解析系の確立については、当初画像解析ソフトウェア開発が難航していたが、その問題を克服することに成功し、安定した解析が行えるような環境が整った。このソフトウェアと線虫周囲環境を制御できるマイクロデバイスを併用することにより、匂い感受性に対する厳密な応答を調べることを現在進めており、本年度中には成果を公表できる目処がたった。 また③自由行動下の線虫行動観察系の確立は当初計画していなかった課題であるが、上記①と②と併用して大きな効果が生まれる可能性がある技術であった。特に線虫を顕微鏡視野中につねにトラップする制御系とメカニカルステージの設計を克服することができ、一気に研究を推し進めることができた。予備的な結果については投稿論文を準備している。
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今後の研究の推進方策 |
①蛍光タンパク質を用いた特定神経細胞活動の計測:感覚神経細胞AWCなどの特定神経細胞について下記②のデバイスを併用することにより、匂い刺激に対するカルシウムイメージングおよびcGMPイメージングを進める。また完全拘束下の線虫について、同時に2種類のFRETセンサーを特定神経細胞に導入することにより、例えば感覚神経細胞における単一細胞内シグナル伝達機構の解明を行う。 ②マイクロデバイス中での行動解析系の確立:前年度までに開発したマイクロデバイスとソフトウェアを利用して、濃度が異なる2種類の匂い刺激について、それを嗅ぎわけることができるかを明らかにする。これにより心理学で知られているWeber則が線虫感覚系で成り立っているかを調べる。 ③自由行動下の線虫行動観察系の確立:介在神経細胞AIYについて自由行動下での線虫行動と細胞個別部位でのカルシウム応答について対応付けを行い、「行動と神経活動」について詳細に調べる。またKillerredによる特定神経細胞即時破壊技術と組み合わせて、線虫行動を神経回路レベルで明らかにする一連の手法を確立する。
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次年度の研究費の使用計画 |
物品費に関しては、線虫を飼育・維持するためのプラスチック器具、ガラス器具の購入、種々の蛍光タンパク質を開発するための分子・細胞生物学用の種々の薬品購入、観察光学系に用いるレンズ・フィルターなどの光学部品、データ記録用媒体などの購入に用いる。 旅費は本研究で得られた成果を国内(日本神経科学会(京都)、日本生物物理学会(京都))や国外(米国神経科学会(サンディエゴ))の学会で公表し、当該分野の研究者とディスカッションするために用いる。 謝金は、本研究を進めるための実験補助に対して用いる。
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