線虫をマイクロ流体デバイス中に導入し、一部体の動きを拘束しながら、種々の条件で線虫行動と特定神経細胞でのCa応答を同時に計測する系を確立し、それを用いることにより、線虫行動を神経細胞、神経回路レベルから理解することを試み、以下の結果を得た。 ①介在神経細胞AIYに蛍光タンパク質型膜電位センサーを導入することにより、匂い刺激に伴う線虫膜電位の挙動を明らかにした。AIY神経細胞では、ニューライトでは刺激に応じてCaイオン濃度上昇が見られたが、細胞体では応答が見られないことをを確認した。一方刺激に伴う膜電位の脱分極は、ニューライトと細胞体の双方で見られることがわかった。 ②感覚神経細胞AWAを選択的かつその場で破壊する新規な方法の開発に成功した。蛍光タンパク質Killerredを線虫感覚神経細胞AWAに発現させて、その匂い応答が健全であることをまず確認した。その後緑色光照射によりこの神経細胞を破壊することが可能であることを、共焦点レーザ顕微鏡で確認し、さらに匂い刺激に対する化学走性が阻害されることを明らかにした。本手法により、多数の特定神経細胞破壊線虫を得ることが可能となった。 ③線虫の体長軸に沿って層流を形成可能なマイクロ流体デバイスを作製し、異なる匂い刺激に伴う化学走性を評価するとともに、細胞内Caイオン濃度を同時計測する系の開発に成功した。このデバイスを用いると体軸に沿ったわずかな匂い刺激物質濃度変化をどのように検出するのか(これは従来風見鶏戦略として知られている)を厳密に制御された環境で調べることができる。このデバイスを用いて、どの程度の匂い刺激差を線虫が神経細胞レベルと行動レベルとで検出しているかを明らかにするとともに、線虫匂い刺激に対してウェーバー則が成り立っているのかを検証し、細胞レベルと行動レベルとでウェーバー比が異なることを明らかにした。
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