研究課題
平成24年度においては、これまでの我々の逆行性ウイルスベクターシステムによる遺伝子導入の効率をより向上させることを目指し、新型の改変ウイルスエンベロープの開発とその性状解析を行った。特に、神経細胞に特異的でグリア細胞等分裂性の細胞には導入されない新しいタイプのニューロン特異的逆行性遺伝子導入 (neuron-specific retrograde gene transfer or NeuRet) ベクターを構成するエンベロープタンパク質は、そのアミノ酸配列改変による逆行性遺伝子導入に与える性質の変化が多様であった。そのことから、NeuRetベクターのエンベロープタンパク質のアミノ酸構造を改変した様々なタイプのベクターを作製し、それぞれをマウス背外側線条体に注入してこれまで得られていたベクターが示す逆行性遺伝子導入との比較を行った。それぞれのタイプのベクターをマウスに注入してから4週間後に脳を摘出し、背外側線条体領域に投射する皮質、視床、黒質における脳切片を作製して、免疫組織化学的手法により遺伝子発現の解析を行った。その結果、従来型のNeuRetベクターに対し、改変型ベクターにおいてはほぼ同程度か従来型をやや下回る遺伝子導入効率を示すことが明らかとなった。今後は、さらなるアミノ酸配列の変異導入とエンベロープタンパク質の由来するウイルス株の改変などを行うことで、より高頻度な遺伝子導入を可能とするタイプのベクター開発を行う。
2: おおむね順調に進展している
現時点においては、エンベロープタンパク質のアミノ酸変異導入によって得られた改変型ベクターのうち、従来型を越えるより高い遺伝子導入効率を示すベクターは得られていないが、当初の予定通り実験は遂行することができた。今後エンベロープタンパク質のさらなるアミノ酸配列への変異導入を行うと共に、エンベロープタンパク質の由来するウイルス株の改変などを行うことを計画している。
NeuRetベクターでは、 狂犬病ウイルス糖タンパク質(RV-G)細胞外ドメインN末端領域に水泡性口内炎ウイルス糖タンパク質(VSV-G)細胞外ドメインC末端領域と膜貫通・細胞内ドメインを連結した融合糖タンパク質をエンベロープとして構成される。24年度は従来のNeuRetベクターを構成するエンベロープに対し、RV-GとVSV-G領域の境界配列を3アミノ酸ずつずらしたタイプのエンベロープを作製することでその性状解析を行い、より高い遺伝子導入効率を示すタイプを検索してきた。25年度においては、このアミノ酸置換をより詳細に1アミノ酸ずつ変異導入したタイプを用いてマウスの脳における遺伝子導入効率を解析することを予定している。また、これまでは脳神経回路における遺伝子導入を中心としてきたが、筋肉などの末梢部位へのベクター注入によって、中枢神経系へ遺伝子導入できるかの実験を検討している。
・逆行性ウイルスベクター作製に必要な分子生物学関連の消耗品・機器費用・遺伝子変異導入に関わるDNAコンストラクションの委託費用・実験動物(マウス)の購入、管理費用
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 3件) 学会発表 (4件)
PLoS ONE
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