研究課題/領域番号 |
24650170
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研究機関 | 奈良県立医科大学 |
研究代表者 |
坪井 昭夫 奈良県立医科大学, 医学部, 教授 (20163868)
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研究分担者 |
高橋 弘雄 奈良県立医科大学, 医学部, 助教 (20390685)
吉原 誠一 奈良県立医科大学, 医学部, 助教 (90360669)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 匂いセンサー / 嗅覚系 / 油センシング / カルシウムイメージング / 必須脂肪酸 |
研究概要 |
味覚においては、油センサーの研究が進んでいるが、嗅覚により油の匂いを感じる仕組みは、全く明らかにされていない。申請者はこれ迄の研究から、油やその主成分である不飽和長鎖脂肪酸の匂いにより、マウスが誘引されることや、嗅覚を用いて、これら必須脂肪酸の相違を識別できることを見出した。また申請者は、必須脂肪酸であるオレイン酸に応答する嗅細胞を同定し、新規の油センサー分子OOR(oily odorant receptor)を見出した。 そこで本研究では、不飽和長鎖脂肪酸に応答する嗅細胞とセンサー分子OORに着目し、嗅覚における新規な油センシングの分子機構を解明する。具体的には、(1)油の匂いに対する反応性の解析と(2)油の匂いセンサーの機能解析を行う。まず、油やその構成要素である脂肪酸やグリセロールに対する嗜好性や識別能の有無を、行動実験を用いてマウスの個体レベルで解析する(1-1)。また、嗅球の神経回路レベルでの活性化部位の解析(1-2)と、カルシウムイメージングによる嗅細胞レベルでの匂い応答の解析(1-3)を行い、嗅覚の油に対する反応性を明らかにする。さらに、新規の油センサー分子OORの機能を解明するため、OOR 細胞で特異的に発現する遺伝子を、次世代シークエサーを用いて、網羅的に探索する(2-1)。得られた候補分子に関しては、レンチウイルスによる嗅細胞でのin vivo遺伝子発現系(2-2)を用いて、新規の油センサー分子OORに関しては、ノックアウトマウス(2-3)を用いて、油のセンシングに関する機能解析を行う。 肥満は生活習慣病の原因であり、大きな社会問題の1つであるので、油への嗜好性を生み出す“油の匂いを感知する仕組み”を明らかにすることは、肥満対策の観点からも極めて重要であると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度では、(1)油の匂いに対する応答性の解析を行った。 (1-1)マウスの匂いに対する行動解析:申請者は、これまでのマウスの行動解析から、植物油に含まれる不飽和長鎖脂肪酸(オレイン酸、リノール酸、リノレン酸)の匂いが、マウスに誘引作用を持つことを見出している。そこで、動物性脂肪に多く含まれる飽和脂肪酸や、短鎖や中鎖の脂肪酸について、匂いの嗜好性テストで調べた。その結果、マウスは中鎖の飽和脂肪酸に有意に誘引されることが分かった。また、匂いの弁別学習実験において、マウスは個々の脂肪酸の匂いを識別できることが分かった。 (1-2)神経活動のマーカー遺伝子を用いた嗅球の活性化部位の解析:特定の匂いを嗅いだマウスの嗅球では、匂いに反応する受容体からの入力を受ける糸球のみが活性化される。神経活動のマーカー分子Zif268による抗体染色を行うと、活性化した糸球の周囲の介在ニューロンのみを染めることができる。そこで、マウスにオレイン酸の匂いを嗅がせた直後に、嗅球切片に対してZif268の抗体染色を行ったところ、嗅球の腹側部に存在する数個の糸球が活性化されることが判明した。 (1-3)嗅細胞の匂い応答の解析:嗅上皮から嗅細胞を単離してカルシウムイメージングを用いて、油や脂肪酸に対する反応を解析し、上記1-1)、1-2)の結果と比較検討した。申請者はこれまでに、嗅上皮から単離した嗅細胞の中に、オレイン酸に応答するOOR嗅細胞を見出している。そこで、カルシウムイメージング解析より、嗅球の腹側部に投射する嗅上皮のゾーン(zone 3-4)において、サラダ油に応答する嗅細胞が見られたが、統計的に処理するには数が少なすぎるので、2-1)でノックインマウス作製して、さらに詳細に検討する予定である。 以上の結果により、本研究は順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度では、(1)油の匂いに対する応答性の解析と、(2) 油の匂いセンサーの機能解析の解析を行う。 (2-1)油のセンサー細胞特異的な遺伝子の探索:申請者が同定した油センサーOOR遺伝子の翻訳領域を、gapEYFPと置き換えたノックアウトマウスを作製する。そして、そのマウスの嗅上皮から油のセンサー細胞を、YFP蛍光を指標にして単離し、cDNAライブラリーを作製する。OOR細胞で特異的に発現するセンサー分子やシグナル伝達因子を、次世代シークエサーを用いて、網羅的に探索する。得られた候補遺伝子については、in situハイブリダイゼーションを行い、嗅上皮での発現を確認する。 (2-2)レンチウイルスを用いた遺伝子導入による油センサー分子の機能解析:申請者がこれ迄に見出した油センサーの候補分子や 2-1)の解析で得られた分子を、レンチウイルスを用いて、単独または組み合わせて、マウスの嗅細胞に遺伝子導入する。生後1日目の新生児マウスの嗅上皮にレンチウイルスを注入し、1~2週間後に嗅上皮からウイルスの感染した嗅細胞を単離して、カルシウムイメージングを用いて、匂い応答を解析する。油センサーの候補分子を異所発現させた嗅細胞が、油や不飽和長鎖脂肪酸への反応性を獲得するのかどうかを検討する。 (2-3)ノックアウトマウスを用いた油センサー分子の機能解析:野生型のマウスは、植物油に含まれる不飽和長鎖脂肪酸(オレイン酸、リノール酸、リノレン酸)の匂いにより誘引されるので、油センサーOOR遺伝子のノックアウトマウスについて、同様な行動実験を行う。もし、油や不飽和長鎖脂肪酸の匂いに誘因されない場合には、匂いの弁別学習実験において、ノックアウトマウスが脂肪酸以外の匂いの相違を識別できるかどうかを調べることにより、嗅覚喪失の特異性を明らかにする。
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次年度の研究費の使用計画 |
該当なし
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