研究課題
動物は、獲得した情報を常に独立した記憶として新規保存するわけではなく、新しい情報を既存の記憶に結びつける「記憶アップデート」を随時行っている。申請者は自らの「プロテオソーム依存的タンパク質分解が記憶アップデートの起点となる」との仮説を検証するため、記憶固定化(新規形成)時と比較しつつ、アップデート時の脳内におけるプロテオソーム依存的タンパク質分解活性とその記憶制御に対する役割を解析した。前年度に継続した解析から、複数の海馬依存的記憶課題において、記憶固定化時には海馬では、タンパク質分解の活性化は観察されず、また、プロテオソーム依存的タンパク質分解の阻害も固定化には影響を与えなかった。従って、固定化、すなわち、最初に記憶が形成される際にはプロテオソーム依存的タンパク質分解が必要とされないことが明らかとなった。これに対して、記憶再固定化時には、海馬において、プロテオソーム依存的タンパク質分解の活性化が観察され、また、このタンパク質分解の阻害は再固定化を誘導するために必要な「記憶不安定化」を阻害することが明らかとなった。また、記憶消去時にも脳内の複数の領域で、プロテオソーム依存的タンパク質分解の活性化が観察され、このタンパク質分解の阻害は消去を阻害することが明らかとなった。以上の結果は、プロテオソーム依存的タンパク質分解の活性化は、(既に貯蔵されていた)記憶の想起時にのみ活性化されることを示しており、プロテオソーム依存的タンパク質分解は記憶アップデート時に活性化されることを強く示唆するものであった。さらに、このプロテオソーム依存的タンパク質分解を指標にして、「新規性」認識に関与する脳内領域とニューロンの同定が可能となることが示唆された。以上の結果から、既存の記憶のアップデート時にプロテオソーム依存的タンパク質分解タンパク質分解が活性化されると結論した。
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Brain Research Bulletin.
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