線条体は大脳基底核の主要な神経核であり、線条体を中心した大脳基底核神経回路の異常はパーキンソニズム、ジストニア、バリズムなど様々な錐体外路症状とともに、強迫性障害、うつ、妄想、幻覚といった非運動症状を来たす。過去においては、線条体の中型有棘細胞(MSN)が構成する直接路および間接路がどのように働いているのかといった観点からの研究が進んできた。一方、線条体を神経構築学上特徴づけるのはストリオゾーム(S)およびマトリクス(M)から成るモザイク構造である。しかしながらそれぞれを構成するMSNがどのような機能的役割を果たしているのか、さらには3次元的には迷路状のモザイク構造自体がどのような機能的意義を持つのかについて不明であった。本研究ではSおよびM細胞を選択的に標識する新たな実験系を組み立てモザイク構造形成調節機構を前方視的に解析した。 ①マウス胎仔におけるモザイク構造形成の初期過程において、S細胞は既にほぼ静止状態にあるのに対して、M細胞はいまだ活発に細胞移動し、S細胞とも反発性を示さない。S細胞は運動能に制限があるにも関わらず、神経突起を介した相互的な結合により集合する。 ②細胞移動能が制限されたS細胞は神経突起が届きうる範囲に位置するS細胞とのみお互いに集合体を形成しうる。また一方、活発に細胞移動するM細胞がS細胞と混在するその様式に従って、将来的に構成されるS細胞の集合体の大きさ、数、線条体における配置が決定される可能性が示唆された。 ③モザイク構造形成の成熟過程においては、活発に運動するM細胞はS細胞と反発性を示す。この反発機構により将来的に2者に明確に分かれるSおよびM区画が成立していくことが示唆された。 ④以上より、SおよびM細胞が線条体構築の時間軸に沿ってそれぞれ特徴的な細胞移動能を示すことで線条体モザイク構造形成過程が段階的に調節されるメカニズムの一端が明らかとなった。
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