研究課題/領域番号 |
24650178
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
村上 安則 愛媛大学, 理工学研究科, 准教授 (50342861)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 脳・神経 / 発生 / 行動 / 進化 / 遺伝子 |
研究概要 |
本研究の目的は、孵化後すぐに行動を示す真骨類フグの神経発生の観察、遺伝子発現解析、行動解析、さらに遺伝子の機能阻害実験により、行動を司る神経回路の分子基盤を明らかにすることである。これまでにフグを用いて、神経発生と遊泳行動に関する研究を行った。その結果、フグ受精卵へ特定の薬物(重油やピレン)を処理すると孵化後の遊泳行動に異常が生じる事が判明した(Kawaguchi et al., 2012)。この結果を手がかりにして行動発現に関わる神経機構の解析を進めた。その結果、行動異常を示すフグ仔魚では、末梢神経の走行や視神経の中脳への投射に変化は見られないことが判明した。しかし興味深いことに、これらの個体では、中脳視蓋のサイズが特異的に減少していた(Sugahara et al.,投降準備中)。このことは、孵化直後の遊泳行動発現に上記の領域が関与していることを示唆している。さらに、どのような神経回路の異常によって遊泳行動が阻害されたのかを明らかにするため、フグよりも解析が容易なアフリカツメガエルで研究を進めた結果、神経ガイド分子であるslitとRoboのモルフォリノ処理によって初期神経回路の一つである後交連が特異的に消失することが判明した。また、ヤツメウナギに関して頭部に発生する神経回路の解析を進めた結果、アフリカツメガエルと同様にslitが神経回路に対応するように発現することが判明した。今年度はこれらの結果を手がかりに、フグではc-fosのイントロン領域に対応するプローブを用いた発現解析を行い、行動発現時に活動していた神経を同定する。また、アフリカツメガエルとフグを用いてslitとroboを介する神経ガイド機構が行動発現にどのように影響を及ぼしているのかを解析する。これら3種類の動物で得られた知見を基に比較解析を行い、遊泳行動を司る神経回路の進化についての進化学的考察を進める。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
まず、平成24年度に予定していた研究のうち、フグとヤツメウナギの中枢神経系の発生の追跡と遺伝子クローニングについては、それぞれの胚を用いて解析を進め、中枢神経の発生様式について基本的な情報を得ることができた。また、ヤツメウナギではEphC、Slit、Sema3Aのクローニングに成功し、その発現パターンを明らかにすることができた。さらに、フグの遊泳行動の解析は25年度に行う予定であったが、24年度に前倒ししてその解析を行い、薬物処理によって神経異常と遊泳行動異常が誘発されることを見出し、今後の解析にとって非常に重要な知見を得ることができた(Kawaguchi et al., 2012)。当初の予定ではフグのEph/ephrin、Slit/Robo、Neuropilin/Sema3Aのクローニングを行い、その発現を調べる予定であったが、行動異常を示す個体を用いて神経発生の解析を行った結果、Eph/ephrinやNeuropilin/Sema3Aが関与するとされる末梢神経や視神経投射にはほとんど影響が見られなかったため、中枢神経系の回路形成に関わるとされるSlit/Roboを用いて解析を進めた。この解析には繁殖期が限られるフグは不向きであったため、当初の予定を少し変更し、繁殖が容易なアフリカツメガエルで解析を進めた。その結果、これらの遺伝子のモルフォリノによる阻害によって、初期神経回路のひとつである後交連に異常が生じることを見出すことができた。すなわち、上記の神経ガイド分子が孵化直後の行動に関わる神経回路の形成に関わっている可能性が示唆される。これらの結果から、当研究の目的である、神経ガイド分子-神経回路-行動というスキームの基で、発生直後の行動を司る神経回路の分子基盤の解明について重要な手がかりを得られたものと考え、現在までに研究計画は当初の計画以上に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
当初はヤツメウナギ胚に対してBrainbowコンストラクションを行い、特定の神経を可視化してその走行パターンを解析する予定になっていたが、デキストランやNeurovueを用いた神経ラベリング法の確立に成功したため(Rhinn et al., 2013)、ヤツメウナギの神経ネットワークの発生解析に関しては上記の方法で進めていく。また、前年度においてフグの孵化直後の遊泳行動に中脳視蓋が関与している可能性が示唆されたため、今年度はその結果を基に、フグのc-fosのイントロン領域に対応する遺伝子をクローニングし、それをプローブとしてin situ hybridizationを行い、行動発現時に実際に活動していた神経を同定する。また、アフリカツメガエルを用いた実験から、slitとroboが初期神経回路の形成に関与していることが判明しているので、今年度はフグに加えてアフリカツメガエルを用いて孵化後の遊泳行動の解析を行い、上記の遺伝子が関わる神経ガイド機構が、遊泳行動の発現に関与しているかどうかを調べる。また、ヤツメウナギを用いて神経回路形成に関わる遺伝子(slit,roboならびに他の神経ガイド分子)の発現パターンを神経回路の発生位置や時期と対応させながら解析し、さらに孵化直後のヤツメウナギを用いた行動解析を進める。ヤツメウナギを比較対象として用いるこの研究で、進化学的な見地から、脊椎動物の初期段階で確立された行動原理に関する手がかりが得られると期待される。そうして得られた結果をフグやアフリカツメガエルで得られた知見と比較して解析することにより、神経ガイド分子-神経回路-行動というシステムがどのように進化してきたのかについて考察する。
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次年度の研究費の使用計画 |
遺伝子の発現解析のために、50MLの遠心管とビーカーを購入済み。 (経理処理上、残額が発生したが、既に執行済みである。)
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