研究概要 |
本研究の目的は、孵化後すぐに行動を示す動物の神経発生の観察、遺伝子発現解析、行動解析、さらに遺伝子の機能阻害実験により、行動を司る神経回路の分子基盤を明らかにすることである。平成25年度にはフグ受精卵に対して神経発生を阻害する薬物(ピレン)を処理すると孵化後の遊泳行動に異常が生じる事が判明し、これに関する論文が受理された(Sugahara et al., 2014)。この研究では、行動異常を示すフグ仔魚では、末梢神経の走行や視神経の中脳への投射に変化は見られないが、中脳視蓋のサイズが特異的に減少していた。このことは、孵化直後の遊泳行動発現に上記の領域が関与していることを示唆している。さらに、どのような神経回路の異常によって遊泳行動が阻害されたのかを明らかにするため、解析が容易なアフリカツメガエルをモデル動物として研究を進めた。その結果、神経ガイド分子であるslit2とRobo2のモルフォリノ処理によって初期神経回路の一つである後交連を校正する神経の束がきちんとした神経束を形成していないことが判明した。さらに、モルフォリノ処理した個体を遊泳行動が観察できる時期まで発生させ、行動解析を行ったところ、その遊泳面積が正常個体と比較して有意に低下していることが判明した。このことは、発生初期に形成される基本的神経回路のひとつ後交連が、後に形成される複雑な神経回路や行動に影響を及ぼしており、神経ガイダンス分子の一部がその分子的な基盤となっていることを示唆している(投稿準備中)。さらにヤツメウナギ胚を用いた解析から、Robo遺伝子の発現位置と後交連の位置が対応していることが判明し、上記の分子機構が進化の初期の段階で存在していた可能性が示唆された。これらの研究成果により、本研究の目的である、「脊椎動物の発生期に形成される神経回路が担う行動制御」を達成できたと考えられる。
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