本年度は昨年度に引き続き、ヒトの海馬にのみ観察される繰り返し構造についての研究を継続した。詳細な検討を加える中で、これまで明瞭な繰り返し構造を一種類のものと考えていたのが、細胞構築が異なる複数の構造に分けられる可能性に気づいた。しかもそのような繰り返し構造の複数のタイプは、海馬内部の亜区域に応じた違いを呈している可能性を示した。従ってヒト海馬内部の亜区域を正しく同定することが必要となったが、げっ歯類と異なり、霊長類の海馬の内部区分には確立したものがない。げっ歯類では明快なCA3、CA2、CA1の区分も、文献により異なった(主観的な)解釈がなされている。そこで客観的な亜区域区分を得るために、複数の抗体を用いて免疫組織化学による区分を検討した。その結果、これまでほとんど用いられることのなかった物質に対する抗体が、 CA3領域と、げっ歯類よりも大きな広がりを示すCA2とを示す結果を得た。その妥当性を、より厳密な実験条件を設定できるげっ歯類で確認したが、その過程では海馬台、前海馬台内部の亜区域についての新たな所見を得ることもできた。これらの結果を再びヒト海馬および海馬の周辺構造に適用し、これまで行われてきたNissl染色による区域区分に客観的な免疫組織化学的区分を総合したうえで、ヒト海馬に固有の複数のタイプからなる繰り返し構造についての定性的、定量的検討を鋭意加えている最中である。
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