最終年度では、これまでのデータを整理し、不足分について反射電子像を取得できる走査電子顕微鏡を活用し補充実験を実施した。加えて、本テーマに関する最新の国際的情報を得るため、国際学会に参加し、多くの研究者と直接討論する機会を得た。なお、本研究では、初期の目的を必ずしも達成することができなかった事実は認めざるを得ない。しかし、細胞間スペースの三次元構造に焦点を当てたことで、神経機能の根幹にかかわる重要な知見を見出せたことは、当初の目的とは異なるが、神経科学上重要な成果を挙げることができたと考える。 【達成できた課題】基盤となる手法の確立である電子顕微鏡の反射電子像の活用による(1)超広領域超微形態解析、(2)連続切片法による超微形態三次元再構築。【達成できなかった課題】液体ヘリウムによる急速凍結手法の活用(細胞間隙の広がりの把握)が液体ヘリウムの不足・高騰によりあきらめざるを得なかった。【期待以上の成果】細胞間隙のうち、神経伝達を修飾しうる重要な構造であるRanvier node についての新知見を得た。(1)これまで教科書的には中枢神経のNodeはastrocyte に包まれている、とされてきたが、むしろ細胞外基質(extra cellular matrix)が50%以上であること、(2)70%以上のnodeの軸索に雨だれ状の突起が観察され、内部にdebris が含まれるものがあり、さらに、これらの多くは隣接するグリアに取り込まれている像を示した。これは、軸索内の不要構造(debris)をnodeにおいてグリア細胞に委ねているという新たなコンセプトを示している可能性がある。(3)nodeにおける軸索の太さとnode長とは相関しないことが明らかとなった。以上については現在論文化中である。 また、飛躍的に進んだ超広領域における電子顕微鏡による微細形態解析により、共同研究で進めていた髄鞘化と運動機能のかかわる画期的な研究をScienc誌に発表することができた。
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