研究課題/領域番号 |
24650184
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研究機関 | 独立行政法人国立精神・神経医療研究センター |
研究代表者 |
星野 幹雄 独立行政法人国立精神・神経医療研究センター, 神経研究所 病態生化学研究部, 部長 (70301273)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 神経科学 / 発生・分化 / 脳・神経 / 脳神経疾患 |
研究概要 |
(1)平成24年度には、新たに自閉症関連分子であるAuts2 (Autism Susceptibility Candidate 2)が神経細胞移動に関与していることを明らかにした。Auts2はヒト遺伝学から自閉症およびてんかんに関連があることは示唆されていたが、その分子・生理機能については全くわかっていなかった。免疫染色により、神経細胞内においては、核にも存在するが、主として神経突起や成長円錐などに強く局在し、アクチン線維と共局在することがわかった。培養細胞系においてAuts2を強制発現させると、Rac1が活性化され、Cdc42が不活性化されることがわかった。また、プロテオミクス解析や生化学実験から、Auts2が二種類のRac活性化因子(RacGEF)と結合することによって、Rac1を活性化させていることが示唆された。また、子宮内エレクトロポレーション法によってノックダウンベクターを発生途上の大脳皮質に導入すると、細胞分化に影響することなく、神経細胞移動が顕著に阻害された。ノックアウトマウスを作製したところ、やはりこの神経細胞移動の異常は再現された。以上から、Auts2は大脳皮質の錐体神経細胞においてRac1を活性化、Cdc42を不活性化し、アクチン細胞骨格系を制御することによって、神経細胞移動に関与することが明らかになった。 (2)Rac1およびCdk5のドミナントネガティブ体発現ベクターを胎仔脳の様々な特定の領域に導入しその領域での神経細胞移動を阻害したマウス個体をこれまでに多数作製した。今後数ヶ月から1年以上に渡って、これらのマウスおけるてんかん様症状について詳細に調べて行く。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに神経細胞移動に関わる分子経路としては、STEF/Tiam1/P-Rex1-Rac1-JNK-MAP1B-微小管経路、Cdk5-p27-RhoA-cofilin-アクチン経路、N-Cadherinの細胞内小胞輸送経路、などについて明らかにしてきた。本研究では、さらにAUTS2という新たな分子が神経細胞移動に関与するということを明らかにできた。それだけでなく、この分子の異常は、ヒトにおいて自閉症やてんかんを引き起こすことが知られている。そのため、単に神経細胞移動の分子機構の一端を明らかにしただけでなく、その異常によっていかにしてヒトのてんかんや自閉症が引き起こされるのか、について、その病理を知るための第一歩となりうる。そういう意味においても意義深い。 また、Focal Cortical Dysplasiaモデルマウスも順調に作製できたので、今年度に解析する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
神経細胞移動の分子機構に関わる分子について網羅的に調べる予定であったが、AUTS2の機能を明らかにしてんかんとの関連を解析する仕事が大きく展開しそうなので、重点をこの分子の解析にやや置いて行こうと考えている。そのために、多分子のスクリーニングは控えめにして、その代わりAUTS2のコンディショナルノックアウトマウスの作製や、さらにてんかんや自閉症関連行動を観察する行動解析、およびin vitroにおけるAUTS2の解析などに力点を置いて解析する。 Focal Cortical Dysplasiaモデルマウスを作製したので、その行動解析も行う予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
一部の遺伝子改変マウスの完成が遅れた結果、平成24年度の動物飼育費用への支出が大幅に減少したため、次年度に繰り越した。その分、平成25年度の動物飼育費用がかなり増えることになると思われる。また、平成24年度に予定していた海外出張に行かなかったので、旅費を平成25年度に繰り越した。平成25年度に成果の発表として海外出張に行く予定である。その他、そのマウスの解析のための、抗体、DNA関連試薬、などのために次年度の支出が見込まれる。
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