研究課題
近年、神経変性疾患の分子病態解析が進展し、それら疾患の発症に膜小胞・物質移送系と連携した異常タンパク質の蓄積、細胞内小器官の異常が関わっていることが明らかにされている。特に、オートファジー・リソソーム系の変調は、疾患の発症及び進行を左右する重要な要因とされている。よって、そのような細胞内調節系は新たな治療標的系と捉えることができる。しかし、これまでに、その様な細胞内恒常性維持機構の改善を目指した疾患治療薬の開発研究はほとんど行われていない。本研究では、細胞内恒常性維持機構の改善を定量的に測定する手法を開発することにより、筋萎縮性側索硬化症(ALS)に対する新たな新規治療候補化合物スクリーニング系を確立することを目指す。具体的には、まずpH感受性蛍光タンパク質(mKeima-Red)融合型LC3トランスジェニック(TG)マウスを作出する。その上で、ALSのマウスモデルを用い、それらと新規作出TGマウスと交配し、神経変性疾患発症・進行に伴うオートファジー・リソソーム系の異常を可視化できる評価系動物を作出することを目指す。H25年度は、マウス全身でmKeima-Red融合型ヒトLC3Bを発現する系統を作出した。作製したコンストラクトをマウス受精卵にマイクロインジェクションにより導入し、ファウンダーマウスを3匹得ることに成功した。現在、交配によるF1個体の作出、挿入遺伝子コピー数の解析、及び導入遺伝子発現レベルの検討を行っている。また、培養細胞レベルでの検討については、既にこれまでに利用されてきたEGFP-LC3Bを陽性対照群として、mKeima-Red融合型LC3Bの細胞内で発現及び動態に関して検討した。その結果、mKeima-Red 融合型LC3Bは、EGFP融合型のものと同等に飢餓培養条件下でオートファゴソームへ局在化することが確認された。
3: やや遅れている
本研究は、細胞内恒常性維持機構の改善を定量的に測定する手法を開発することにより、筋萎縮性側索硬化症(ALS)に対する新たな新規治療候補化合物スクリーニング系を確立することを目指すものである。研究2年目に当たる平成25年度は、研究初年度に作製した発現コンストラクトを用いてTGマウスを作出することに成功している。但し、400個の受精卵にインジェクション行い、移植を行ったが、現時点で3匹のファウンダーマウスしか得られていない状況で、予定より作出効率が低い。さらに、その中のマウスから樹立した1系統については、挿入コピー数が1コピーであると推定され、蛋白質発現レベルも極めて低いことが判明している。今後、残りの2匹のファウンダーから樹立中の系統の解析を進める。一方、対照実験として計画しているEGFP-LC3B発現マウスとALSモデルマウスとの交配実験は順調に進み、LC3Bの過剰発現は疾患の発症及び進行に影響しないことが明らかとなった。従って、LC3B分子は、疾患進行時のオートファジー・リソソーム系の異常検出に有効なマーカーであると結論できる。更に、培養細胞レベルでの検討については、既にこれまでに利用されてきたEGFP-LC3Bを陽性対照群として、mKeima-Red融合型LC3Bの細胞内で発現及び動態に関して検討した。その結果、mKeima-Red 融合型LC3Bは、EGFP融合型のものと同等に飢餓培養条件下でオートファゴソームへの局在化することが確認された。現在、ライブイメージングを含めて、細胞内LC3B陽性小胞の動態解析を進めている。以上より、計画の進捗状況としては、若干の遅れはあるが、全体としてはほぼ順調に進んでいると考えられる。
本研究は、計画より若干遅れているが、おおむね順調に進んでおり、研究計画の修正及び変更の必要はない。従って、次年度も以下の研究計画に従って研究を遂行する計画である。1.評価系動物の作出研究3年目は、作製したTGマウスの系統におけるmKeima-Red-LC3Bの発現状況を各臓器・器官別に解析するとともに、飢餓時におけるLC3Bの反応性について個体レベルで解析を行う。さらに、2種類変異SOD1発現マウス系統(SOD1H46R及びSOD1G93A)を用い、各々の変異SOD1-TGマウスとオートファゴソームを可視化することができるpH感受性蛍光タンパク質LC3-TGマウスを各々交配し、神経変性疾患発症・進行に伴うオートファジー・リソソーム系の異常を可視化できる2種類の評価系動物を作出し、解析する。なお、陽性対照群としては、EGFP-LC3Bを発現する変異SOD1発現マウスを用いるものとする。2.ALSマウスモデルに由来する初代培養神経細胞の樹立H25年度に引き続き、作出したmKeima-Red-LC3Bを発現するALSモデルマウス系統から、初代培養神経細胞を樹立する。特に様々な分化ステージにおける経時的なLC3陽性オートファゴソームの細胞内及び神経突起での分布・局在、数の増減等の変動を免疫組織学的解析、並びに電子顕微鏡による超微形態構造学的解析を行なう。さらに、これまでに明らかにされている既存の膜小胞マーカーとの共存を解析することにより、正常及び疾患状況下におけるLC3陽性オートファゴソームの成熟・移送・分解過程を解明する。これらの解析を通して、疾患発症・進行の過程での、特に軸索におけるオートファジー・エンドソーム・リソソーム系のSpatio-Temporalな変調の実態を明らかにする。MEFは非神経系細胞対照群として同様の解析を行う。
研究初年度にトランスジェニックマウス作出計画が遅延したため、研究2年目であるH25年度に繰越金が26万円程度生じた。H25年度は、研究成果の項目でも述べたとおり、トランスジェニックマウスの作出には成功したが、作出された系統数が予定より大幅に少なかったため、その系統維持・繁殖に関わる経費が予定より少なくなったため、更に26万円程度の経費が少なくなり、その結果合計54万円程度の繰越金が生じることになった。昨年度からの研究費繰越分に関しては、神経変性疾患発症・進行に伴うオートファジー・リソソーム系の異常を可視化できる2種類の評価系動物を作出するための経費に充当する。H26年度は研究最終年度に当たるため、短期間に複数のマウス系統を交配により作出し、解析する必要がある。そのためには、マウス繁殖のスケールを大規模にすることが必須であり、かかる経費も増えることになる。今般は、繰越金をその目的に使用することにより、効率よく研究計画を遂行することができ、研究期間内に目的とする研究成果が得られるようになると期待される。
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Neurobiol. Aging
巻: 35 ページ: 726.e7-726.e9
10.1016/j.neurobiolaging.2013.09.008