研究課題/領域番号 |
24650197
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
村松 里衣子 大阪大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (90536880)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 軸索 / 損傷 |
研究概要 |
脳挫傷、脊髄損傷、多発性硬化症などによる中枢神経障害は、時間経過に伴い自然回復する。大人の中枢神経にわずかに備わる再生能力が、損傷環境により増強されたためと予想されてるが、その実体は不明だった。申請者はこれまでの研究により、損傷後の神経回路再生は血管新生の後に生じることを発見した。さらに神経回路の再生を担う血管内皮細胞由来の因子の同定にも成功した。しかし、同定因子の作用だけでは、十分な神経回路の再生効果が得られなかった。そこで本課題では血管の機能(酸素供給)も神経回路の再生を促進すると推察し、培養実験により神経回路の修復における酸素供給の役割の解析を試みた。 細胞が酸素を感知し、細胞内へシグナルを伝達する分子機構として、酸素感受性タンパク質の関与が知られている。本課題では、マウス大脳皮質初代培養細胞における酸素感受性タンパク質の機能を抑制した際に、神経突起の伸長がどのように変化するか、検討した。その結果、酸素感受性蛋白質の働きを抑制することで、神経突起の伸長が低下した。さらにその分子機構の検討を行い、酸素果樹性タンパク質の作用は低分子量蛋白質の活性依存的であることがわかった。以上のことから、神経回路は、適切な酸素濃度下で形成されることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
酸素濃度に応じて活性や発現が変化する物質は複数存在する。まず、関連する分子の働きを広く抑制した際に仮説通りの現象が得られるか検討するには、薬理学的に関連する物質の作用を広く阻害する実験を行う必要がある。しかし薬理学的な実験は、複数の候補分子の関与を検証することになり、分子の特定ができないという弱点がある。また、培養実験を行うにあたり、解析する現象ごとに培養条件の検討が必要になる。しかし、本課題においては、適切な培養条件の確立を迅速に行うことができ、また薬剤の効果も安定して得ることができた。複数の候補分子の中の何が本現象に関わるかを解析するには、遺伝学的に特定の分子発現を抑制して、培養実験を行う必要がある。遺伝学的実験のための条件検討についても順調に進み、関連する分子の候補を遺伝学的に抑制した細胞の確立にも成功した。これらのことから、標的となる分子の同定までたどり着くことができた。 これらの検討が速やかに進んだために、標的分子が促す細胞内シグナルを探索する薬理学的なスクリーニングも進めることができ、関連する分子の探索にも成功した。以上のことから、本課題の現在までの達成度は、当初の計画以上に進展したと判断している。
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今後の研究の推進方策 |
前年度までの研究で、培養細胞レベルで酸素感受性タンパク質による神経回路形成メカニズムの一端が解明した。今後は、得られた現象が個体レベルでも作用するか、特に中枢神経回路傷害後の神経回路の修復機構における関与を検証する。 マウスでは片側の脳を損傷すると、損傷した領域が担ってた神経機能は失われる。大脳皮質運動野を損傷したマウスでは、反対側の四肢に運動機能麻痺や感覚障害が生じる。ところがこの症状は時間が経つと部分的に自然回復する。これは健常側の運動野の神経回路が、軸索枝を発芽し、それが代償的な神経回路を構築するために導かれることと知られている。そこで、酸素感受性タンパク質の働きを弱めることで、代償的な神経回路の形成が抑制されるか、検証する。マウスの大脳皮質に順行性トレーサーを注入し、運動野由来の神経回路を可視化する。酸素感受性たんぱく質の作用を弱める薬剤あるいは強める薬剤を健常側の運動野に持続的に注入し、神経回路の走行を形態学的に解析することで、神経回路の修復能への効果を評価する。運動野を損傷したマウスでは、四肢の麻痺が生じ、神経回路の修復に伴い、運動機能の自然回復が生じる。薬剤を施したマウスでは、神経回路の修復と同じく運動機能の改善に対しても影響があるか、行動試験を行い解析する。
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次年度の研究費の使用計画 |
該当なし
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