外傷や炎症により中枢神経系が傷害されると、様々な神経機能に障害があらわえれる。この症状は、時間経過が経つにつれて自然に回復するが、それは傷害により傷ついた神経回路が修復した結果と考えられていた。なぜ神経回路が自然に修復するか、そのメカニズムには不明な点が多い。神経回路が自然に修復するメカニズムを解明することで、その作用を活かした治療薬剤の開発へ繋がる可能性が期待される。 本研究では、中枢神経回路の修復における酸素供給の意義について、特に酸素感受性タンパク質の作用を中心に解析した。種々の酸素感受性タンパク質の作用を抑制することで、in vitroおよびin vivoで、神経突起の伸長を抑制する結果が得られた。さらに、培養細胞を用いた検討から、酸素感受性タンパク質を介した神経突起の伸長には、突起伸長において重要な役割を担う低分子量G蛋白質が関与することが示唆された。in vivoで、酸素感受性タンパク質の作用を抑制する処置を施したマウスに対して、脳損傷を加え、神経回路の自然修復を観察した。その結果、酸素感受性タンパク質の働きを弱めることで、神経回路の修復も阻害された。さらに同マウスにおいて、神経機能が自然に改善する過程を行動試験により観察したところ、酸素感受性タンパク質の働きを弱めたマウスでは行動機能の改善も抑制された。以上の結果から、酸素感受性タンパク質は中枢神経回路の修復と神経症状の改善に対してプラスの役割を持つことが示唆された。
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