研究課題
成体脳では神経幹細胞を取巻く微少環境によりその増殖や分化が大きな影響を受ける。我々は、成体脳海馬歯状回顆粒細胞下層で、神経幹細胞と神経系に存在する免疫系細胞(ミクログリア)が隣接し存在するという結果を得ており、微少環境(ニッチ)における免疫系細胞とのクロストークによる神経幹細胞制御を考慮する必要があると考えてた。また、近年、神経系と免疫系の相互作用が示唆されてきているものの、自然免疫分子のニューロン新生に対する詳細な作用機序は明らかにされていない。そこで、本代表者は自然免疫受容体であるTLR7、TLR9の各遺伝子欠損マウスと野生型マウスの生理的条件下におけるニューロン新生の差異を検討したが、生理的条件下においてこれらに有意な差は認められなかった。しかし、カイニン酸投与によりてんかんを誘導し、あえて神経系に傷害を与えたところ、海馬においてTLR9のmRNA発現量の増加が観察され、TLR9シグナル活性化が予測できた。そこで、野生型及びTLR9遺伝子欠損マウスのてんかん誘導後に神経幹細胞の増殖への影響を観察したところ、野生型と比較してTLR9遺伝子欠損マウスでは、海馬歯状回におけるBrdU陽性細胞数が増加し、この細胞はニューロブラスト(既にニューロンに分化することが決定している神経前駆細胞)であることが明らかになった。さらに、野生型と比較してTLR9遺伝子欠損マウスでは、成熟ニューロン数の増加が見られ、ニューロン新生がさらに促進されることも明らかにした。また平成25年度は、カイニン酸刺激により変性したニューロンより放出されてDNAがミクログリアを活性化し、炎症性サイトカインの産生を促進することを明らかにした。すなわち、これらの結果はTLR9シグナルを介した、神経系-免疫系のクロストークにより、てんかん発作後の異常ニューロン新生が抑制されることを示唆している。
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