研究課題
挑戦的萌芽研究
本研究では、ラット脳の海馬からの初代培養神経細胞をシャーレ上にて長期培養し、インビトロでのニューロンの老化様態を観察するとともに、その老化の制御因子、神経細胞寿命の規定因子を把握することを目的として研究を進めた。これまでに確立した培養条件で、恒常的に5-6ヶ月の長期培養には成功しているが、以前の予備的研究の中では1年を越えての生存も十分にあったので、また不確定な「条件」があると想定された。その問題点はあるにせよ、培養1ヶ月齢(ほぼ4週齢)のニューロンと培養4-5ヶ月のニューロンとでは老若の比較研究ができるようになっている。2週間ごと(隔週で)水曜日に培養を実施することでほぼ半月ごとの新しい細胞群を継続維持し、インビトロでの神経老化の研究のシステムがほぼできあがったといえる。実験を4群に分けて計画していた。実験1:インビトロにおける初代培養神経細胞の最長寿命と老化プロセス:海馬ニューロンの他に中脳のニューロンの長期培養も試みたが、こちらは生存率が低く、2-3ヶ月までしか培養ができなかった。これには、ニューロンの化学的性質の違いに影響されている可能性が考えられた。実験2:神経細胞の長期培養への外因と内因効果:当初、グリアとニューロンの生存を区別して観察する、あるいは実施することを予定したが、グリアとの分別実験は未だ手をつけておらず、混合培養での老化実験に徹している。来年度、余裕がでたら実施予定とする。実験3:長期培養神経細胞内における加齢依存性細胞機構:細胞骨格系の老年性変化を追うことを目的としたが、特に蛋白質全体にわたって「アセチル化」の度合いが亢進していることがわかってきた。具体的にどの種類の蛋白質のアセチル化が進むのか、それによって機能的な影響がどう出るのか、それを今後追究する予定でいる。実験4:非分裂細胞における細胞老化の刻印に関する検討:これは次年度の課題。
2: おおむね順調に進展している
2年計画の前半が終わった時点での達成度は40%程度。海馬ニューロンについては系がほぼ確立したが、ドーパミンニューロンについては培養条件の修正が必要である。ニューロンの老化の進展につれて蛋白質のアセチル化亢進の実態がみえてきたが、まだ具体的な修飾蛋白の種類やアセチル化サイトの特定が来年度の課題となっている。
継続的に2週間ごとの培養は維持し、老若の比較研究をさらに進める。アセチル化蛋白質を特定し、できればアセチル化部位(どのリジン残基か)を決定する。ニューロンの老化とともにSIRT1のような脱アセチル化酵素レベルは亢進している。しかし、蛋白質全体のアセチル化度は増加している。この矛盾点の原因を探りつつ、残りの予定実験を進めてゆくとともに、ある程度データが固まった時点で論文投稿準備へと進める。
これまでどおり、細胞培養に関する培地、試薬、妊娠ラット等の消耗品に多くを割き、一部は研究補助者の人件費とする予定。
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件)
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