研究課題/領域番号 |
24650201
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研究機関 | 宮崎大学 |
研究代表者 |
田口 明子 宮崎大学, 医学部, 准教授 (80517186)
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研究分担者 |
塩見 一剛 宮崎大学, 医学部, 准教授 (40305082)
土持 若葉 宮崎大学, 医学部, 医員 (90573303)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 老化 / 脳・神経 / 成体脳神経新生 / 米国・ボストン |
研究概要 |
我々はインスリン様シグナルの主要調節タンパク質であるIRS2の脳での低下(BIrs2ko+/- and -/-マウス)が寿命延長/抗加齢作用を導くことを明らかにしていたが、脳IRS2の減少が加齢に伴う認知機能の衰退にどのように影響を与えるかについては不明であった。老化付随の認知機能低下は海馬歯状回の神経細胞新生が加齢に伴い減少することに関係していることから、長寿マウスBIrs2ko+/- and -/-の歯状回神経細胞新生と高次脳機能について解析を行い、生理的脳老化の調節における脳IRS2の役割について検討を行った。始めに研究計画・方法に従い、免疫組織学的解析から我々はIRS2が歯状回の成熟神経細胞だけでなく、Sox2,Galectin1を発現するType1,2の神経幹細胞/前駆細胞やType3の未成熟神経細胞マーカーであるDcx陽性細胞にも発現していることを明らかにした。またBrdU パルスラベル法を用いて歯状回における神経幹細胞、神経前駆細胞の増殖能力について調べたところ、BIrs2ko+/- and -/-マウスにおける細胞増殖は同齢対照群に比べ有意に増強していることが判った。さらに9日間のWater T mazeテストによる海馬依存的な記憶・学習能力についての解析から、老齢(17-18月齢)コントロール群のテスト正解率が5日目で70%であること対して同齢BIrs2ko+/- and -/-マウスの正解率は3日目ですでに90%に達することが判明した。これらの結果は脳IRS2の低下が脳老化を遅延する作用を有することを示唆するもので、本作用の機序を明らかにすることは、本研究の目的である「脳老化が導く機能的変化とそのメカニズムを理解すること」に重要で有益な知見となると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究代表者は2011年10月下旬に米国より帰国し現所属に赴任した際に、本研究の遂行に必須である共焦点顕微鏡が研究室内に無く、使用時間が9am~5:30pmでかつ週末使用出来ない共通機器室の共焦点顕微鏡を使用しなければいけない状況にあることを知った。このように帰国直後でかつ限定された実験環境下で研究をスタートし遂行させることは大変に困難であったが、研究分担者、連携研究者及び研究補助員の協力的サポートとチームワークによりほぼ予定通りに計画した研究を遂行することができ、今年度の研究成果は本研究の目的達成ための大きな一歩となった。
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今後の研究の推進方策 |
H24年度に得た研究成果を基盤とし、また研究計画に従って以下実験を行う。 1. 海馬におけるインスリン様シグナルの様態についての解析 細胞内インスリン様シグナルの活性化は海馬シナプスの形成維持、可塑性の制御に重要な役割を果たしていることが知られているが、インスリンを始めとする多数の内在性リガンドが生理的条件下で細胞内シグナルをどの程度活性化しているのかを個別かつ定量的に示す事は困難である。IRS2欠損脳全体における下流の細胞内インスリン様シグナル、Akt、FoxO1のリン酸化は減少はしているものの極端な下落は起こっていない(未発表)。これはIRS1等他のファミリーメンバーによる補償的作用によるものと考えられるが、海馬特異的細胞内インスリン様シグナルの活性化にIRS2がどの程度関与しているかについては明らかではない。これらの疑問に応えるため、マイクロダイセクションによって分離したBIrs2ko, sysIRS2ko, 対照群マウスのそれぞれの海馬を用い、IRS2の下流シグナルの変化について生化学的解析を行う。 2. 脳インスリン様シグナルの増加が海馬の機能に与える影響についての解析 脳IRS2の欠損を介したインスリン様シグナルの低下が寿命延長および抗加齢効果を導くことが申請者らによって明らかにされているが、脳インスリンシグナルの増加が海馬の神経細胞新生や可塑性への影響については未知のままである。脳特異的にIRS2を過剰発現させたトランスジェニックマウス(Irs2ntg)あるいは脳特異的 creマウスとfloxed Foxo1 and/or FoxO3マウスとの交配により脳特異的 FoxO1 and /or FoxO3欠損マウスを作製し、海馬神経細胞新生と高次機能について解析を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度は今年度と同様、物品費は行動解析実験器具、形態学実験器具・試薬、分子生化学実験試薬、実験動物費・維持のために使う他、共焦点顕微鏡の周辺部品の購入にも使用する予定である。旅費に関しても次年度は現在判っているだけで国内学会3件と国際学会2件で発表する予定となっている他、技術習得と研究打ち合わせのために東京、名古屋、福岡、愛媛に出張することが計画されている。また本研究結果を含む論文投稿の準備を現在行っているため、次年度は論文投稿に関する経費(投稿料、英文校正、その他準備費)が必要となる予定である。
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