研究概要 |
我々は先行研究により、内側前頭前野(mPFC)に内側基底核原基(MGE)細胞を移植した場合、後頭葉に移植した場合と比較してMGE細胞がリーリン陽性/ソマトスタチン陽性の抑制性神経細胞に多く分化することを報告した(Tanaka et al.,J.Neurosci.2011)。このことはMGE細胞が移植された後に、分裂・分化・成熟する場である出生後早期のmPFCに、他の大脳皮質領域、特に後頭葉には乏しい特殊な細胞環境が存在することを示唆しているため、その点を分散培養系で再現出来るかを検証した。 まず新生仔マウスの大脳皮質前部と大脳皮質後部をそれぞれ切り出し分散させ培養皿に播種して培養を行った。翌日、胎生13.5日目のマウス胎児からMGEを切り出し同様に分散させたのちに、EGFP発現ベクターをエレクトロポレーションにより導入することによりMGE細胞を標識した。これを大脳皮質の培養細胞の上に播種して共培養し、2週間後に固定して抗ソマトスタチン抗体染色を行った。GFP標識されたMGE細胞中のソマトスタチン陽性細胞を計数した結果、大脳皮質前部と共培養された場合の方が、大脳皮質後部と共培養された場合より、MGE細胞に由来するソマトスタチン陽性の抑制性神経細胞の割合が有意に増加していた。 次に、上記の共培養実験での大脳皮質前部の効果が分泌性因子によるものであるかを明らかにするため、セルカルチャーインサートによって大脳皮質細胞とMGE細胞を隔てた状態で共培養を行った。その結果、MGE細胞と大脳皮質の細胞とが直接接触することのない培養環境においても、上記と同様に大脳皮質前部との共培養の方が大脳皮質後部との共培養に比べソマトスタチン陽性の抑制性神経細胞の割合が有意に増加した。このことから大脳皮質前部の効果は分泌性因子によることが示唆された。
|