研究課題/領域番号 |
24650204
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研究機関 | 独立行政法人理化学研究所 |
研究代表者 |
実吉 岳郎 独立行政法人理化学研究所, 記憶メカニズム研究チーム, 研究員 (00556201)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | シナプス可塑性 / 酵素反応 / 非天然アミノ酸 / プロテオミクス |
研究概要 |
カルモデュリンキナーゼ2(CaMKII)は多機能タンパク質リン酸化酵素で、記憶を司るシナプス可塑性に重要な役割を果たしている。CaMKIIによって多くの神経機能が制御されている事が知られているにもかかわらず、直接の標的分子はほとんど同定されていない。これは酵素-基質相互作用が一過的であるため、従来の生化学的、プロテオミクスによる手法では基質の同定は技術的に難しい為であると思われる。本研究計画の目的は、CaMKIIをモデルとして非天然アミノ酸、光活性化タンパク質という二つの新しい技術を応用し、タンパク質リン酸化酵素の基質を同定する方法論を確立することである。 今年度は、非天然アミノ酸であるp-benzoil-L-phenylalanine(pBpa)をCaMKIIへ導入する事を試みた。CaMKII分子の結晶構造はすでに解明されている。CaMKII分子の触媒領域でのチロシン、フェニルアラニン残基、F16, F24, F89, F157, F171についてアンバーコドン、TAGへ置換した。このアンバーコドンを認識するトランスファーRNAをphoto-crosslinkableなアミノ酸、pBpaとともにHEK293細胞内へ導入し、紫外線照射によって近傍タンパク質に架橋を形成するかを検討した。上記のpBpa導入CaMKIIは全て全長タンパク質が生成されたが、F16, F157, F171にpBpaを導入した場合、CaMKII分子間での架橋が観察された。今後、この3つの部位を中心に検討して行く。一方、光活性化型CamKIIの触媒領域に変異を導入したF89G変異を導入すると光活性化が起こらなくなった。従って、pBaを導入する際も光活性化特性に関して注意が必要と思われる。また、分散海馬神経細胞を用いスパインの形態変化をもたらす化学LTPの条件を決定した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度の研究計画では1) 非天然アミノ酸導入CaMKIIの作成、および2) 試験管内での結合実験、3) 神経細胞内での結合実験を行う予定であった。計画通りに進んでいるとは言えず、達成度としては「やや遅れている」になると思われる。理由として1)非天然アミノ酸導入CaMKIIのタンパク質収量が非常に悪く、インビトロでの実験を行えなかったため、その改良等に時間を取られた。1)については非天然アミノ酸導入CaMKIIの作成は成功しているので、進捗はあったと思われる。また、2)を行う為の精製タンパク質の作成も完了しているため来年度での研究の進展に期待できると考えている。しかし、光活性化型CaMKIIへの点変異導入によって酵素活性、分子特性が変化してしまう事が分かったため、非天然アミノ酸の導入部位の決定は早急に検討したい。また、3)の予備実験としての神経細胞を刺激する条件を決められたので、来年度の実験をスムーズに行う事ができると考える。
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今後の研究の推進方策 |
F16, F157, F171にpBaを導入したCaMKIIについて既知の基質(Homer3, Tiam1, GluR1)について紫外線照射による架橋が形成されるか検討する。精製タンパク質およびHEK293細胞内の双方で実験を行い、最も効果のあった部位を光活性化型CaMKIIにも導入し、光活性化特性および酵素基質特異性を確かめる。 同時に紫外線照射時間の検討も行う。これまでの報告では、紫外線照射時間として1分から30分間の報告があるが、CaMKIIの場合の照射時間の最適化も行う。続いて神経細胞内で発現させたときに細胞内でタンパク質複合体を作るかを検討する。神経細胞内で共発現させたpBpa導入CaMKIIと相互作用するタンパク質を質量分析計で同定する。同定されたタンパク質間相互作用について、HEK293細胞および大腸菌を用いて発現させた精製タンパク質を使い、CaMKIIによって直接リン酸化されるか、点変異導入法とphos-tagを用いた生化学実験で検討する。直接的な結合か、またどの部位に結合するかは免疫沈降法とGST-プルダウン法で検討する。試験管内でのリン酸化部位が確定した分子に対してはリン酸化特異抗体を作成し、細胞内でのリン酸化を確認する実験を行う。適当な神経細胞刺激にCaMKII阻害剤であるKN93 (10 microM)で処理した際のリン酸化の有無をウェスタンブロット法や免疫組織染色法で確認する。また培養海馬神経細胞を使い、光活性化型CaMKIIと二光子顕微鏡での光刺激を組み合わせ、単一スパイン内におけるCaMKII活性化とそれに伴うタンパク質リン酸化を免疫組織化学法で検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度に使用する予定のある研究費が生じた状況としては、年度の研究計画は達成度で述べた通りやや遅れており、実験試料の調整のための試薬等の必要な時期が次年度にずれたために生じた。翌年度に請求する予算と合わせ、生化学実験用試薬、分子生物学実験消耗品、細胞培養実験関連試薬、カスタム抗体作成に使用する。
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