研究課題/領域番号 |
24650207
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
小倉 明彦 大阪大学, 生命機能研究科, 教授 (30260631)
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研究分担者 |
冨永 恵子(吉野恵子) 大阪大学, 生命機能研究科, 准教授 (60256196)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | シナプス可塑性 / ゆらぎ / シナプス新生 / シナプス廃止 |
研究概要 |
本研究課題は、長期記憶の細胞基盤であるシナプスの新生・廃止が、どのような動態で進行するかを、私たちが独自に樹立したインビトロ・モデル実験系を用いて解析することを目的とする。 シナプス新生(廃止)は、刺激によりシナプスを発出(消退)させる機構が起動して実現するように考えられている。しかし、実際のシナプスは無刺激時にも一定の率で発出・消退を繰り返しており、両者が均衡して総数に増減のない状態(動的平衡)を保っている。したがって、シナプス数の増加(減少)は、発出率を上げ(下げ)ても、消退率を下げ(上げ)ても実現する。実際はどうなのか。今年度は以下のような成果を得た。 培養海馬切片中の神経細胞を蛍光標識し、同一細胞の同一部位を経時的に追跡観察しながら、LTPを繰り返し誘発すると、シナプス新生は(1)発出率・消退率がともに増す「ゆらぎ増大期」(2)消退率が下がって総数が増す「ゆらぎ不均衡期」(3)発出率も下がる「再均衡期」の順を追って進行することがわかった。つまり、刺激後単に発出率が上がって増加するような「一方向的過程」をたどるわけではなかった。 次に、LTDを繰り返し誘発すると、シナプス廃止が新生と裏返しの経過をとると予想したが、予想に反してそうではなく、発出率は不変のまま、(4)消退率が上がって総数が減る「ゆらぎ不均衡期」(5)消退率が下がる「再均衡期」という順を追って進行した。これまでシナプス新生と廃止は、時間経過、刺激の繰り返し回数、要求する神経栄養因子など、さまざまな点で鏡像的なふるまいをみせてきたが、詳細に動態を追うと必ずしも鏡像的ではないことがわかった。 この結果は、シナプスの新生・廃止を生み出す制御機構、とくに骨格の安定性制御機構に関して、多くの示唆を与えるものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
予想と違う結果になったという意味では③であるが、意外な発見がえられたという意味では①である。そこで②と総合評価する。
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今後の研究の推進方策 |
シナプス廃止は、予想と異なり「ゆらぎ増大期」を経ることはなかった。その結果、新たな疑問が生じた。というのは、シナプス廃止の進行では、シナプス新生と鏡像的な「潜伏期」が認められているからである。今回の結果から、形態的に早く廃止されるシナプスと遅れて廃止されるシナプスとは、機能が異なると考えなくてはならなくなる。そこでいわゆるサイレント・シナプスが先行して廃止されるということがあるか検討する。 また、シナプス新生には既存シナプス密度との相関があった(密度の低い部分に新生する)が、シナプス廃止にも既存密度との相関があるか解析する。これらを通じて、記憶形成における「ゆらぎ原理」の詳細を明らかにする。
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次年度の研究費の使用計画 |
シナプスの動態観察には、蛍光蛋白質を発現するトランスジェニック動物を利用する。この動物は適当な間隔で更新し、発現程度の維持を図る必要があり、その購入に充てる。また、観察には切片培養の標本を用いるので、培養機材の購入に充てる。 本年度は計画の最終年度に当たるので、成果発表のための旅費にも充てる。論文としての発表のための経費にも充てる。
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