研究課題
線条体は行動の「動機づけ」に関わる黒質緻密部のドーパミンニューロンに直接相互に連絡するストリオソームと呼ばれるコンパートメントと、行動の「実行」に関わるマトリックスという名のコンパートメントからなる。強迫性障害(OCD)に関わるOCD回路は近年線条体のストリオソームというコンパートメントを重要な中継点とすることが明らかになってきた。ストリオソームの活動の異常な上昇は統合失調症やOCDに類似した「常同行動」を示すようになる。線条体のストリオソームからの生理学的な記録はチロシンヒドロキシラーゼを持つ細胞をGFPで光らせたマウス脳の切片を用いれば蛍光顕微鏡下に同定できるので可能である。本研究は、メタンフェタミン投与により作成したOCDモデルマウスの線条体ストリオソームからwhole-cellパッチクランプ法でストリオソームのシナプス可塑性を記録し、OCDではどのような生理学的変化が起こっているのかを明らかにし、これにより、OCDの病態生理と治療の可能性を探ることを目的とした。1週間にわたるメタンフェタミンの投与はマウスに明らかな常同行動を引き起こし、線条体ストリオソームの投射ニューロンにc-fosの発現の増加、マトリックスにc-fosの発現の低下を来した。mEPSCはコントロール群ではその大きさに違いはなかったが、頻度はストリオソームで有意に低かった。メタンフェタミンの慢性投与によって常同行動を発現したマウスの線条体mEPSCはストリオソームで大きさがコントロール群より大きい傾向が、逆にマトリックスではコントロール群より小さい傾向が見られた。頻度は両者とも変化はなかった。これらのことは、常同行動を発現した状態では、線条体ストリオソームにおいては興奮性入力の長期増強が、マトリックスにおいては長期抑圧が起こっている可能性を示すものである。この研究は主任研究者の定年退職により、1年で終了となった。
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