研究課題/領域番号 |
24650221
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
小林 哲生 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (40175336)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 原子磁気センサ / MEG / fMRI |
研究概要 |
ヒトの脳神経活動に伴って発生する極微弱な磁場を計測する脳磁図(MEG)は高い時空間分解能が長所であり、脳機能イメージングの極めて有用なツールの一つである。一方,活動源の推定には逆問題解析が必要であり空間分解能の高い機能的磁気共鳴画像法(fMRI)との融合が望ましい.本研究では、従来MEG計測に用いられてきた超伝導量子干渉素子を凌ぐ新たな超高感度光ポンピング原子磁気センサ(OPAM) により冷媒なしにMEG計測を目指す。さらにMEGで捉えられる磁場を新原理の神経磁場依存(NMFD)-fMRIとして捉えることに挑戦する。 初年度は,OPAMの高感度化のための基礎実験として3層磁気シールドボックス内において,まずアルカリ金属のK原子単体,Bb原子単体を用いた計測を行った.その後,K原子とRb原子という2種類のアルカリ金属を混合したハイブリッド型により、Rb原子をポンピングし、Rb原子のスピン偏極をK原子とRb原子のスピン交換衝突によりK原子に移すことにより計測系のノイズ低減しOPAMの高感度化を目指した。併せてセルの作成の諸条件、最適なレーザのパワーなどを理論と実験の両面から明らかにした。 また,次年度に向けて光ファイバー,波長板などの光学系,ヒーターを一体化したOPAMのモジュール化に着手した。まず脳磁図(MEG)計測の前段階として磁場強度が2桁大きいヒト心磁図の計測を行った後,MEG計測に向けてファントム実験を行った. さらに,神経活動によって発生する磁場(神経磁場)により神経の含まれるMRボクセルの磁気共鳴信号変化を直接捉える新原理の神経磁場依存(neural magnetic field dependent: NMFD)型fMRI計測に向けた理論とファントム実験を開始し有益な知見が得られた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要で記載の通り,計画していた原子磁気センサの高感度化については,K原子とRb原子を混合したハイブリッド型のセンサによりノイズの低減を図り高感度化が実現できることを理論と実験の両面から示す事ができたこと,また脳磁図の計測に向けて心磁図と生体ファントムからの磁場の計測に成功したこと,さらに神経活動をMR信号変化として捉える新原理についても理論とファントム実験により検証できたことから,おおむね順調であると言う事ができる.
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今後の研究の推進方策 |
次年度はハイブリッド型により原子磁気センサの高感度化とモジュール化の研究を引き続き進めると共に光ポンピング原子磁気センサ(OPAM)による生体磁気信号の計測を行う。まず脳磁図(MEG)より磁場強度が2桁大きいヒト心磁図の計測を行った後,MEG計測に向けてファントム実験を行う.その際,既存の全頭型MEG装置による計測との比較検討を行いながら研究を進める. さらに,次年度は新原理の神経磁場依存(NMFD)型fMRI計測に関して理論と実験の両面から詳細に検討する。神経磁場をMRIによって直接計測しようとする試みはこれまでもあったが,本研究ではOPAMであるが故に可能な低周波数帯の磁気共鳴信号の高感度計測がブレークスルーとなる.既存の高磁場MRIではプロトンの磁気共鳴周波数は数十MHzであり,神経磁場にはその周波数帯の成分はなく,磁気共鳴信号に変化が生ずる機序は神経磁場強度自体による静磁場強度の変化に対応した共鳴周波数シフトまたはディフェージングということになるが,3Tの静磁場に対し神経近傍の磁場は大きく見積もっても10桁以上小さく,共鳴周波数シフトもしくはディフェージングではほとんど信号変化は期待できない.一方,OPAMで実現可能な超低磁場MRIでは,磁気共鳴周波数が数kHz以下となり,神経磁場に十分含まれる周波数となる.従って神経磁場による磁気共鳴によって磁化が倒れMR信号が変化するという新原理で機能的MRIが実現可能であると考えられる.この神経磁場を直接反映するMRI信号変化を初年度に引き続き動物実験用の7TのMRI装置によりスピンロックパルスシーケンスを用いたファントム実験により計測し原理を検証する.
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度の研究費は項目毎に以下の様に使用を計画している. 物品費については,原子磁気センサの高感度化とモジュール化研究のための電子回路部品,光学部品,パソコン,磁気信号ならびにMRI信号計測実験のための生体ファントム製作のための電子材料,光学部品,研究遂行に必要な書籍や研究会資料代などを合わせて94万円. 旅費については,研究成果の発表,資料収集,調査のために合わせて35万円. 実験補助に対する謝金には10万円. その他として国際会議,国内会議の参加費,英文校正,論文別刷代などに15万円.
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