本研究はパーキンソン病の責任細胞であるドパミン神経細胞miRNAの発現変動を網羅的に解析し、パーキンソン病とmiRNAの機能連関の解明を目指している。研究材料にホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)脳病理切片を利用することがこの研究の目標であり、免疫組織化学的に同定したドパミン細胞に特異的なmiRNAの発現解析を行うことが最大の特徴である。患者由来標本の利用に先立ち、ラットFFPE切片標本で解析条件を検討しているが昨年度以来RNA品質不良の問題に直面しており、未だ問題解決の糸口を探る状況が続いている。昨年度までの結果より、組織切片への免疫組織化学染色の適用がRNA分子の剪断化を助長しその更なる品質低下を惹起することが明らかである。この問題回避に向けラット線条体FFPE切片標本における免疫組織染色過程とRNA品質の関連性を検討し、以下の結果を得ている。 (1) 未染色の切片由来RNAは剪断化を生じているもののその品質は良好であった。(2) 組織切片の抗原賦活化処理はRNA回収量を低下させるが品質には影響しなかった。(3) 組織切片上での抗原抗体反応のみ(染色過程無し)でRNA品質が著しく低下した。(4) アルカリフォスファターゼ染色はRNA品質に影響しなかったが、過酸化水素を用いるDAB染色ではRNA品質低下が更に加速した。 以上の結果より、未染色のFFPE切片由来の核酸分子はmiRNA解析に適合することが明らかになった。しかし、組織切片上のRNA分子の安定性は免疫反応過程で消失してしまう。従って、FFPE切片上における抗体特異的細胞由来の核酸抽出に関わるRNA品質低下の問題点を解く鍵は免疫組織染色処理の改変にある。現時点までにはこの問題の解決には至らなかったが今後さらに検討を加え、FFPE切片上における細胞特異的miRNA発現解析の汎用化に向けた方法論の確立を目指したい。
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