研究課題/領域番号 |
24650224
|
研究種目 |
挑戦的萌芽研究
|
研究機関 | 公益財団法人東京都医学総合研究所 |
研究代表者 |
石川 享宏 公益財団法人東京都医学総合研究所, 運動・感覚システム研究分野, 研究員 (90595589)
|
研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
|
キーワード | 脳・神経 / 顆粒細胞 / ユニットレコーディング / 小脳 |
研究概要 |
顆粒細胞記録に最適な電極形状を探るため、さまざまな形状のエルジロイ電極を試作し、覚醒下のニホンザル小脳において苔状線維のユニット活動およびその周辺に観察される小型のスパイク活動の双方を最も安定して検出できる形状を調べた。その結果、先端形状がやや扁平な半球状であり、インピーダンスが2MΩ前後である時に最も安定して検出できることが確認された。この形状の記録電極とアクティブシールド、および予備実験で使用したカスコード接続を応用した記録アンプを用い、苔状線維のユニット活動特有の波形を指標として電極の位置を微調整することにより、運動課題遂行中のニホンザル小脳においても最大30分程度、顆粒細胞のユニット活動と思われる小型のスパイク活動を追跡することが可能となった。 当初の研究計画では、電極形状を決定後、安静時のサル小脳において苔状線維および顆粒細胞の自発活動を対象として計測方法を検討する予定であった。しかし適切な感覚刺激を与えることによって、苔状線維およびその入力を受ける顆粒細胞を特定のタイミングで繰り返し活動させることが可能であるとの考えから、これに必要な刺激装置・方法を検討した。個々の苔状線維は限局した体部位表面への刺激に対してよく反応するが、個々の苔状線維に対応する体部位を毎回特定することは非効率的であるため、感覚神経(橈骨神経および尺骨神経)を上腕の主幹部において表面刺激電極によって通電刺激し、前腕部の広範囲への刺激と同じ効果を得る方法を考案した。この方法をヒトおよびサルに適用したところ、感覚神経だけでなく運動神経を刺激することも可能であり、刺激強度によっては手首や指に伸展・屈曲が見られた。したがって小脳皮質の広範囲で苔状線維および顆粒細胞がこの刺激法によって反応すると期待され、実際にそれらの活動を記録する実験を進行中である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
計測システムの開発については目標を達成することができた。麻酔下のラットだけでなく、覚醒下のニホンザル小脳においても顆粒細胞と推測される小型のスパイク活動を検出可能な実験系を確立することに成功した。 一方で、顆粒細胞のスパイク活動を効率よく検出する手法を検討するにあたり、まず最初の段階として、厳密に制御された感覚刺激を与え、特定のタイミングで高確率にスパイクを発することが期待される状況において記録実験を行うことの必要性が、当初の研究計画では十分に考慮されていなかった。あらかじめ予定していなかった実験を追加したためにやや研究目標の達成が遅れているが、しかし一方で、末梢感覚刺激に対する苔状線維および顆粒細胞の詳細な応答性、および小脳皮質におけるそれらの空間的な分布についてはこれまでに記載された例がないため、それ自体が重要な研究成果となることが期待される。
|
今後の研究の推進方策 |
制御された感覚刺激によって小脳顆粒細胞を特定のタイミングで活動させ、これを長時間安定して記録するための手法を確立する。ヒトの末梢神経機能の検査に用いられる感覚神経伝導速度検査を参考に、感覚神経刺激に最も適したパラメータを決定する。顆粒細胞を捉えた状態で運動課題に移行することで、スムーズに運動時の活動記録を開始できると期待される。運動課題遂行中の小脳顆粒細胞活動データを収集し、顆粒細胞に入力を送る苔状線維、顆粒細胞および顆粒細胞の出力先であるプルキンエ細胞がコードする運動のパラメータを比較し、これらの細胞から成る神経回路で処理される情報の実体を明らかにする。また、感覚刺激に対する苔状線維の応答の潜時を小脳皮質の内外側で比較し、大脳経由で感覚入力を受ける大脳小脳と、大脳を介さない脊髄小脳の境界線を調べる。明確な境界線が見出せた場合、この内外側で顆粒細胞のみならず他の細胞の活動に何らかの相違が見られるかどうかを検討する。 研究の最後に、小脳顆粒細胞記録の手技を応用し、他の脳部位においても同様に顆粒細胞活動の記録に挑戦する。顆粒細胞は形態的にはどの脳部位においてもほぼ同じであるため、基本的に同じ手法で記録することが可能であると予想される。この実験にはラットを用いた簡易の実験系を用い、一次運動野・感覚野など単純な感覚刺激に明確に反応する部位を対象に記録実験を行い、将来的にサルで同様の実験を行う際の基礎データを収集する。
|
次年度の研究費の使用計画 |
研究の進展がやや遅れているため、初年度に導入する予定であったアナログデータ収集システムは未購入である一方、感覚刺激実験に使用する器材を購入したため、その差額として次年度使用分の研究費が生じた。次年度は、当初の予定に従ってアナログデータ収集システムを導入する。顆粒細胞の極めて小さなスパイク活動データを取りこぼすことなく記録・保存するために特注品を作製する必要があり、総額で1,600千円を見込んでいる。 次年度は国内外の学会において本研究から得られたデータを用いた発表をする予定であり、その旅費を支出する。また、毎日のサルのケアに必要な消耗品等の購入に使用する。
|