研究課題/領域番号 |
24650224
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研究機関 | 公益財団法人東京都医学総合研究所 |
研究代表者 |
石川 享宏 公益財団法人東京都医学総合研究所, 運動・感覚システム研究分野, 研究員 (90595589)
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キーワード | 脳・神経 / 顆粒細胞 / ユニットレコーディング / 小脳 |
研究概要 |
顆粒細胞由来と推測されるスパイク活動の検出に特化した電極の作成と計測システムの構築に関しては前年度までに終えており、これを用いて覚醒下のサル小脳における苔状線維および顆粒細胞の同時計測を試みた。より確実かつ容易に実験を行うために、最初に安静時のサル小脳において末梢感覚神経の通電刺激による苔状線維および顆粒細胞の反応を計測することとした。小脳半球部の皮質は脊髄を介して直接、または大脳皮質を経由して間接に感覚入力を受けているため、感覚神経刺激によって特定のタイミングで活動を引き起こすことが可能であると予想された。しかしながら、通電刺激に伴ってプルキンエ細胞の複雑スパイクは容易に引き起こされる一方、苔状線維や顆粒細胞では当初まったく反応が見られなかった。その原因はサルの覚醒度にあり、大脳感覚野の直上で脳波を記録した結果、通電刺激の単調な繰り返しはサルの覚醒度の低下を招き、誘発電位の振幅が顕著に減少することが分かった。そこで通電刺激の強度・タイミングを調節するなどして覚醒度を一定に保ちつつ、再度通電刺激による顆粒細胞記録に挑戦している。これと並行して、運動課題実行中のサル小脳における苔状線維・顆粒細胞記録を試行する過程で苔状線維活動のデータが蓄積され、そのパターンが大脳運動野の神経細胞活動と多くの点で共通していることが明らかになった。大脳皮質から入力を受ける大脳小脳において苔状線維の活動パターンを詳細に調べた研究は前例がないため、この結果は近日中に投稿予定である。顆粒細胞の出力先であるプルキンエ細胞活動は既に記録しているため、顆粒細胞の入力元・出力先の詳細な活動パターンが明らかとなり、そこで行われている情報処理様式の理解に向けて大きく前進した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
計測システムの開発については目標を達成しつつあり、覚醒下のニホンザル小脳において顆粒細胞由来と推測される小型のスパイク活動を検出可能である。本研究では苔状線維との同時記録によって顆粒細胞の同定を試みているため、顆粒細胞記録の成否に関わらず運動課題遂行中の苔状線維活動のデータが蓄積され、顆粒細胞への入力パターンが明らかとなった。出力先であるプルキンエ細胞活動と合わせ、小脳皮質の3層性神経回路における情報変換過程の理解は大きく前進した。しかしながら、顆粒細胞を安定して長時間記録する手法の確立には未だ至っていないため、引き続き検討を重ねる。
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今後の研究の推進方策 |
前年度に引き続き、末梢感覚神経の通電刺激によって小脳顆粒細胞を特定のタイミングで活動させ、覚醒下のサルにおいても長時間安定して記録するための手法を確立する。通電刺激に対する反応および運動遂行中の活動を、顆粒細胞への入力元である苔状線維、出力先であるプルキンエ細胞と比較することによって、顆粒細胞が担っている機能的役割の解明を試みる。 研究の最後の段階として小脳顆粒細胞記録の手技を他の脳領域に応用する。例えば大脳皮質では大型の錐体細胞の他、小型の神経細胞として紡錘状細胞、Cajal水平細胞、星細胞、Martinotti細胞の4種類が存在する。大脳皮質の95%以上を占めるこれらの神経細胞のスパイク活動の検出に適した電極形状および計測手法について検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
25年度に、末梢神経の電気刺激による小脳顆粒細胞の反応の記録手法の確立とデータ収集を行う予定でアナログデータ収集システムの購入を検討していたが、顆粒細胞を安定して記録可能な状態に保持する手法が未確立のため、システムの購入を見送った。このため未使用額が生じた。 アナログデータ収集システムは当初予定していた機材の廉価版でも必要な機能を備えているため、こちらを購入してデータ収集を行うこととし、また研究成果についての学会発表を次年度に行う。未使用額はそれらの経費と、引き続き実験を遂行するための材料費、動物の飼育費に充てることとしたい。
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