研究概要 |
研究代表者は、ミクログリアが社会的意思決定に関与するかもしれないという仮説を解明するために、ミノサイクリンというミクログリア活性化抑制作用を認める抗生物質を用いて、人対象の社会心理学的実験を進めてきた。実験ツールとしては、信頼ゲームという金銭取引ゲームを一貫して採用してきた。健常者男性を対象として実施した予備研究(Watabe, Kato et al. Psychopharmacology 2012)によりミクログリア活性化の抑制が何らかのノイズを抑制しているという仮説を元にして、第二弾の実験として、ミクログリアが性格・気質・不安に影響を与える影響を探るために、20歳代の健常成人男性を対象とした社会的意思決定実験をミノサイクリン内服によるRCT実験として実施した。プラセボ群では、性格傾向、特に、協調性に信頼ゲームの結果が影響されていたのに対して、ミノサイクリン群ではその影響がなくなっていた。つまり、ノイズの原因として、協調性という性格傾向を同定した。本結果は、ミクログリアが発達における性格形成に重要な役割を果たしているかもしれないという新しい仮説を呈示することになり、国際学術誌に掲載された(Kato, Watabe et al. PLoS ONE 2012)。さらに、並行して実施した女性写真を相手とした信頼ゲーム実験では、プラセボ群において魅力度の高い写真相手には高い金額を提供するがミノサイクリン投与群では写真の魅力度に影響を受けないことを突き止めた(Watabe, Kato et al. Scientific Reports 2013)。本結果は、ミクログリアが欲動に関与している可能性を示唆しており、大変興味深い。今後こうした現象の機序解明をさらに進めてゆく。
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