研究課題
平成24年度の研究実績今年度の研究目的:「Cereblon (CRBN)過剰発現個体に対する恐怖条件付け」についてはまず神経系で恒常的にカルシウムセンサーを発現する既存の系統にCRBNのmRNAをマイクロインジェクションし、一時的に過剰発現させた。この個体群の中枢神経系は正常(未処理)個体と比較し縫線核・松果体を含むほとんどすべての神経細胞が整然と増加しており、これまでの研究結果を再現した。次にこれらの個体を通常通り水槽で飼育し、その過程で受精後3か月・6か月の2つの時期で赤色光と電気刺激による恐怖条件付けを実施した。その結果、未処理個体群は両時期で1週間程度から比較的明瞭に光刺激だけで水槽の反対側へ逃避する傾向が認められたが、CRBNを一過的に過剰発現した個体群でもほぼ同じ時期に逃避行動が明瞭になった。そこで現在は、逃避行動が明瞭化するまでの時間ではなく、CRBN過剰発現個体群が敏感な傾向がある光刺激を受けた直後の反応(硬直・反転・逃避時遊泳速度)に焦点を変えて比較検証中である。もしこれらの観点からCRBN過剰発現個体群が正常個体群より迅速な反応を見せた場合は、過剰に生まれた神経が付加的に機能することを示唆するので、機能的な神経新生因子として脳・神経系の再生医療への応用が期待できる。「CRBN過剰発現個体と正常個体の脳神経活動の初期基準値の比較」については、カルシウムセンサーの発現を検出する測定系の新規設置が難しく、予定より遅れ気味である。受精後3-7日の稚魚を寒天で包埋し、リンガー内に置いて頭部背側から励起光を照射し神経細胞群のマクロな興奮を観察する系の構築を目指したが、検出側の感度が低く当初期待したような明瞭なイメージはまだ得られていない。しかし検出画像をモノクロ化することで感度を上げ、正常個体群とCRBN過剰発現群の脳の興奮を比較できるように鋭意改良中である。
2: おおむね順調に進展している
研究の目的(平成24年度)は以下の通りである。「Cereblon (CRBN)の一時的過剰発現個体が機能的な神経を脳内に新生するかの検証」:これについては以下の3段階の研究展開が実施された。1)カルシウムセンサーを神経系に恒常的に発現するゼブラフィッシュ系統に一過的にCRBNを過剰発現させ、脳内で発生した過剰な神経が機能的であるか否かを検証する。(結果)過剰な神経系が比較的容易に観察できる終脳では、未処理個体群と比較しCRBN過剰発現個体群は有意に活発な神経興奮を通常状態で継続していた。この結果は、CRBNにより過剰に発生した神経細胞が機能していることを示唆する。この点は当初の計画通りの順調な進捗と成果である。2)光と電気刺激による恐怖条件付けが形成されるまでの時間が短縮されるかを検証する。(結果)明瞭な光刺激への逃避行動が観察されるまでに要する時間は正常個体群とCRBN過剰発現群の間で有意な差は認められなかった。しかしながら、CRBN個体群は条件付け実験以外の通常条件下でも活発な遊泳とヒトへの迅速な接近行動が特徴であり、同様に光刺激に対しても直後の硬直と反転が非常に早く、反対側へ逃避する遊泳速度も正常個体群より早い傾向があった。現在はこれを定量化すべく測定系を改良中であるが、この結果はCRBNにより新生した神経系が高次機能へ貢献する可能性を示唆すると考えられる。3)受精後3-7日での脳内神経の興奮を正常個体とCRBN過剰発現個体で比較する。(結果)現時点では検出側の感度が低く、明瞭な差がみられるほどシグナルを拾えていない。しかしながら終脳に限った観察ではCRBN過剰発現個体群は正常個体群より終脳神経群での興奮が通常条件下で有意に高いことがわかった。以上の結果は、CRBNの過剰発現により脳内に新生した神経細胞が機能的であることを示唆するものである。
1)恐怖条件付け実験系でのデータ取得:CRBN過剰発現個体群にみられる敏感な光への応答に焦点を当て、条件刺激提示後の硬直・反転・遊泳速度を高速撮影し、正常個体群と精密に各段階のスピードを比較し、定量する。2)CRBN過剰発現個体の全脳レベルと終脳・間脳のミクロレベルでの神経系興奮の定性および定量化:シグナルの検出側の感度を上げる改良を行い、終脳全体だけでなく間脳も含めた微細な神経経路の興奮を比較する。特に1に対応する学習・恐怖反応に関与する終脳(海馬扁桃体基底核相当)と間脳(手綱核・縫線核・松果体)の微細な興奮を検出比較できるように努め、CRBN過剰発現により新生した神経系の機能を神経細胞の興奮と行動への出力の両面で比較検証できることを目標とする。
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Mol. Pharmacol.
巻: in press ページ: in press
doi:10.1124/mol.112.081935