研究課題/領域番号 |
24650250
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
山本 希美子 東京大学, 医学(系)研究科(研究院), 講師 (00323618)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 流れ剪断応力 / LDLコレステロール / 動脈硬化 / 血管内皮細胞 / 乱流 / 完全長cDNAライブラリー / 発現クローニング |
研究概要 |
脳卒中や心筋梗塞の原因となる粥状動脈硬化症は動脈の分岐部や湾曲部の血液の流れが乱れている局所に好発することが以前より報告されている。粥状動脈硬化症は悪玉コレステロールとして知られているLDLコレステロール(LDL)が血管内皮細胞に沈着することにより始まり、最終的には血管壁が肥厚し、血流を障害もしくは遮断する。これまで、血管内皮細胞へどのような分子機構でLDLが取り込まれるかの詳細は明らかにされていない。そこで、本研究では、粥状動脈硬化症の原因分子を探索することを目的として、乱流性の剪断応力に応答するLDL受容体を新規にクローニングし、その生理的・病態的な意義を明らかにすることを目的としている。 実施計画に基づき、COS-7細胞を用いて、完全長cDNAライブラリーの発現クローニングを行った。96 well plateに播種したCOS-7細胞に3万種類の遺伝子を含む完全長cDNAライブラリーを遺伝子導入し、蛍光物質であるDiI-C18をラベルしたLDLが細胞に取り込まれる様子をマイクロプレートリーダーにより測定することで、一次スクリーニングを行った。さらに、LDLを取り込んだクローン遺伝子をCOS-7に再度導入し、同様のアッセイを繰り返すことで、二次、三次スクリーニングを行い、特異的にLDLを取り込む性質をもつ数種のクローンを選別する事に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度の実施計画は以下の通り、COS-7細胞を用いて完全長cDNAライブラリーの発現クローニングを行うことであった。 1. LDLの精製と蛍光標識:ヒト末梢血から得られた血漿成分を超遠心機で密度勾配遠心することにより、LDLを単離(1.019<比重<1.063)する。LDLを蛍光物質でラベルする為に、LDL溶液に、DiI-C18(3)を加え、一晩反応させる。1.063の比重液で密度勾配遠心した後、透析を行い、DiIがラベルされたLDL(DiI-LDL)を精製する。 2. ヒト血管内皮細胞の完全長cDNAライブラリーの調製と細胞への導入:ヒト臍帯静脈内皮細胞から作製した12万種類の完全長cDNA溶液を4種類ずつ混合し、それぞれ96 well platに分注する。一方、COS-7細胞を96 well plateで培養し、2日後に、Roche社製FuGENE6を用いたリポフェクチン法により遺伝子を導入する。 3. 蛍光標識LDLのCOS-7細胞への取りこみ量の測定:遺伝子導入後2日目のCOS-7細胞に、所定濃度のDiI-LDLを37°Cで4時間反応させる。マイクロプレートリーダーで蛍光強度を定量し、LDLの取りこみ量の多いwellを選別する。蛍光顕微鏡により、細胞への取りこみの様子を観察し、擬似陽性を排除する。以上の1次スクリーニングの課程を313枚の96 well plateで行い、LDLを取り込む働きを持つ遺伝子混合液を絞り込む。 4. 遺伝子の塩基配列の決定:陽性反応のある遺伝子の塩基配列をDNAシーケンサーで同定し、遺伝子の名称を検索する。アミノ酸配列から、タンパクの二次構造を検索し、既知のLDL受容体との相同性を解析する。 以上の項目に関する実験および、その解析を全て終了し、ポジティプクローンを得ることに成功している為、計画した研究内容を順調に達成している。
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今後の研究の推進方策 |
今年度はクローニングしたターゲット遺伝子について以下の検討を行う。 1. ヒト血管内皮細胞およびヒト組織における遺伝子発現:各種ヒト血管内皮細胞(大動脈、冠動脈、肺動脈、臍帯静脈、微小血管)を培養し、mRNAを抽出し、total RNAを精製する。制限酵素で消化したcDNAをプローブとして、ノーザンブロッティング法により、ターゲットの遺伝子のヒト血管内皮細胞における発現を定量する。ま た、内皮細胞以外のヒトの臓器や組織、マクロファージ細胞における遺伝子発現を検討する為、ノーザンブロッティング法で同様に確認する。 2. 流れ刺激に対する応答性:各種ヒト内皮細胞の中でも、特に動脈硬化のできやすい冠動脈内皮細胞について、層流と乱流の流れ剪断応力を負荷し、mRNAを抽出する。Real-time PCR法によりターゲットの遺伝子の発現を定量し、流れ刺激に応答するかどうかを確認する。ここで、遺伝子発現が層流刺激で減少し、乱流刺激で増大するものを選別する。また、ターゲット遺伝子の発現変化とLDLの取りこみに相関があるかをスクリーニングの際に用いた方法で確認し、特に相関の高いものを流れ刺激応答性のLDLトランスポーター遺伝子と決定する。 3. siRNAを用いた発現の抑制とLDLの取りこみとの相関:乱流刺激により発現が上昇した内皮細胞に遺伝子配列を基に作製したsiRNAを導入し、その発現を抑制したときにLDLの取りこみが減少するか検討する。 4. ヒト動脈硬化病変における発現:ヒト動脈硬化病変の病理組織を用いてin situハイブリダイゼーションを行い、動脈硬化巣にターゲットの遺伝子が存在するかどうかを確認する。更に、抗体を作製し、ヒト動脈硬化病変におけるタンパク発現を同様に検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
上記の研究推進方策に基づき、1)ヒト血管内皮細胞およびヒト組織における遺伝子発現においては、ヒト培養細血管内皮細胞におけるターゲット遺伝子の発現を確認する為に、各種ヒト血管内皮細胞(大動脈、冠動脈、肺動脈、臍帯静脈、微小血管)の購入費用として、約40万円が必要となる。更に、細胞培養容器や遺伝子工学関連試薬として、約20万円を計上する。2)流れ刺激に対する応答性と、3)siRNAを用いた発現の抑制とLDLの取りこみとの相関の検討に関して、siRNAを含む試薬類の購入費用として、10万円、4)ヒト動脈硬化病変における発現検討の為の抗体作製費用として30万円を予定している。更に、成果を発表する為の投稿費用、印刷費用に10万円、旅費として10万円を計画している。これらはいずれも本研究を遂行する上で必須な費用であり、その積算根拠も世間一般の基準に基づいた妥当なものと考えている。尚、この中で、特に全体経費の90%を超える費目はない。
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