血管系は組織に酸素や栄養素を供給する他、生体にとって多くの重要な働きを担い、ホルモン、サイトカイン、神経間伝達物質といった“化学的刺激”の特異的な受容体を介する調節を受けている。近年、血管系の働きが“化学的刺激”だけでなく、血管内に発生する血流や血圧に基づいて発生する流れ剪断応力や伸展張力といった“物理的刺激”によっても制御を受けることが明らかになってきた。剪断応力による内皮機能の調節は循環機能の恒常性の維持に留まらず、乱流性の剪断応力による粥状動脈硬化や動脈瘤などの血管病の発生にも深く関わっている。心筋梗塞や脳梗塞など重篤な血管病の原因となる粥状動脈硬化症は血管の分岐部に好発することが知られている。血管壁を覆う血管内皮細胞には、血流に基づく流れずり応力が作用している。血管の分岐部では、乱流性の流れずり応力により血管内皮細胞の機能が修飾され、動脈硬化の発症と深く関わる酸化LDLの取りこみが増大すると考えられているが、その分子機構は明らかではない。そこで本研究では、乱流性の流れに応答する酸化LDL受容体を新規にクローニングすることを試みた。具体的には、ヒト血管内皮細胞から樹立された完全長cDNAライブラリーを用いて、酸化LDLの取りこみを解析する発現クローニングを行った。その結果、ヒト血管内皮細胞において、遺伝子およびタンパクの発現が層流の流れずり応力により減少し、乱流の流れずり応力により発現が増大する二種のクローンが特定された。更に、免疫染色により、ヒト動脈硬化病変における発現を確認した。以上の結果から、血管の分岐部に好発する粥状動脈硬化症の発生機序に関与する可能性が示唆された。こられの発見は粥状動脈硬化症の発生機構を明らかにするだけでなく、その治療や予防につながる新しい医薬品の開発につながることが期待できる。
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