研究課題/領域番号 |
24650251
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
阿部 裕輔 東京大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (90193010)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 人工臓器 |
研究概要 |
腎不全患者を対象にした人工透析治療は技術として確立したものとなっている。しかし、血液透析の治療は週3回、4時間程度と患者の時間的拘束が大きく患者の社会生活にも影響する。また日本透析医学会が毎年集計している年別透析患者推移では2011年に304,592人(前年度298,252人)、ベッドサイドコンソールの人工腎臓装置の登録台数も121,835台(前年度118,652台)、と増加傾向にあると報告されている。また年間2兆円近くの医療費が人工透析の費用として計上されている。これは2011年概算の医療費37.8兆円のうちの5%程度を占めることから、高齢者増加、薬剤費の次に医療費全体を圧迫している要因として挙げられることも多い。 このような現状を打破する為には、体内埋込型人工腎臓の開発を21世紀中に遂行する必要がある。だが、現在の確立された血液透析技術の小型化およびその持続透析では、抗血栓性による抗凝固剤(へパリン)の投与やタンパク質の吸着による透析膜の中空糸の目詰まりといった透析膜の問題が多い。また腹膜透析についても長期継続は腹膜炎などの感染症の危険性がある。よって現在の技術の利用では、体内埋込型人工腎臓の開発は困難であり、未だに成功例が報告されていない。 そこで本研究では、血液から血球成分とタンパク成分を遠心分離により除去した血清成分であれば、フィブリノーゲンが除去されているために抗凝固剤を必要とせず、かつ透析膜の中空糸の目詰まりも解消され長期間持続透析できることに着目し、一連の工程を体内で行うためにサイクロン型血液連続遠心分離器を開発する。研究期間内は、人工心臓用血液ポンプを用いて体内に埋め込めるサイクロン式血液連続遠心分離器を開発し、これを用いて血液から血球成分とタンパク成分を濃縮して静脈に戻し、精製した血清成分を用いて持続透析を行う方法の基礎研究を行う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究における計画として、本年度は体内への埋め込みに耐えうるサイズでのサイクロン遠心分離器の除去効率の検証とその流体力学的見地に基づく最適化を遂行した。本来、化学工業分野で使用されるサイクロン遠心分離器は体内に埋め込むためには非常に大きい。そのため埋め込みに伴うサイズの縮小(遠心半径の縮小)により遠心力は低下する。また気体・固体分離を行うサイクロン遠心分離器と、固体・液体分離を行う液体サイクロン遠心分離器では粒子径差の縮小で遠心力に差が出にくいことから、後者の方は効率が悪いことが知られている。よって血液成分から血球・タンパクの除去効率は既存のサイクロン遠心分離器の効率より低いと予測された。 そこで、まず初めに既報の論文や技術資料をもとに体内埋め込みおよび血球成分除去として理想的なサイズのサイクロン遠心分離器の設計に着手した。まず既存の研究成果・技術資料から最適とされる液体サイクロン管の流路形状をそのまま小型化し、数値流体解析ソフト(AnsysCFX)を使用した流路形状の最適化を行った。このとき最適化としてはサイクロン遠心分離器の半径が大きいところで長時間、高速で回転しているように形状を変更した。最適化された流路形状から部品を設計・加工し、遠心ポンプを利用した、ブタ血液による分離除去試験を行った。 その結果、体内埋め込みに伴うサイズ縮小化により、サイクロン遠心分離器の流入口の抵抗が高く、遠心ポンプの圧流量性能では分離に必要な流量を得ることができなかった。よって現状のサイクロン遠心分離器をそのままサイズダウンした程度の改良では流入口部の抵抗が大きく、遠心ポンプでは分離することはできなかった。
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今後の研究の推進方策 |
サイクロン遠心分離器による分離そのものは容易であると考えていたが、サイズ縮小に伴う流入口抵抗の増加は人工心臓用血液ポンプとしては一般的な遠心ポンプでは必要な流量及び圧力を得られないことは想定外だった。そこで、定量型のポンプであるローラーポンプを使用し、遠心分離に必要な流量をサイクロン遠心分離器に送り、再循環型の実験系を再構築する。次にサイクロン遠心分離器のサイズや流量を変化させて、血球、フィブリノ-ゲン(~340 kDa)、グロブリン(200~600 kDa)、アルブミン(69 kDa)といった順に物質を除去するのに必要な相対遠心加速度(G)および遠心時間を算出していく。 数度の実験条件をもとに、再循環状態におけるフィブリノ-ゲンの除去条件を確定し次第、サイクロン遠心分離器の再循環系に血液透析用に市販されているダイアライザーを組み込み、サイクロン遠心分離器の有無でダイアライザーの除去効率への影響がどのくらいになるかを検証する。 また体内埋込型であることから、ローラーポンプより遠心ポンプのほうが小型化に適しているため、低流量・低圧域でも相対遠心加速度の高いサイクロン形状の同定と数値流体解析による粒子運動のモデル化を進め、更なる効率化を目指す。遠心ポンプでも分離可能なサイクロン遠心分離器が完成次第、大型動物(ヤギ)による慢性実験を行う。このとき市販のダイアライザーの問題から体外設置式で行う。この試験では溶血特性や抗血栓性といったデータを算出する予定である。 サイクロン遠心分離器がある程度の実用に耐え、研究データが揃い次第、本研究成果は論文として投稿する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
サイクロン遠心分離器の作製費用として、医用材料代および樹脂の購入代金をそれぞれ200,000円ずつ計上している。この額には遠心ポンプ本体(ディスポーザブル部品)や人工透析用ダイアライザーの代金も含まれている。またサイクロン遠心分離器を稼働させるために必要な電子工作部品の購入資金として200,000円を予定している。 サイクロン遠心分離器完成後の慢性動物実験に必要な費用では、術前経費・術後管理として実験動物購入代金(ヤギ)、医薬品、飼料、外部血液検査費などの計700,000円を予定している。 調査・研究成果発表等の旅費として計200,000円を予定している。
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