研究課題
セロトニンやノルアドレナリンなどの神経修飾物質は,脳の情報処理にグローバルな影響を与える.本研究では,ラットの聴覚皮質の神経活動において,神経修飾物質が,情報処理に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした.具体的には,ラットを動物モデルとして,迷走神経刺激 (VNS) が聴覚皮質の神経活動に与える影響を精査した.なお,VNSは,セロトニン系やノルアドレナリン系を賦活し,脳活動に広範な調整作用を及ぼす.まず,VNSが,聴覚皮質の安静時の神経活動パターンに与える影響を調べた.その結果,VNSは,局所電場電位 (LFP) のパワーを増大させることなく,LFPの局所的な同期を増加させることがわかった.位相同期の上昇は,gamma 帯域では,聴覚皮質内で聴覚皮質内外よりも高くなり,逆に,alpha帯域やlow-beta帯域では,聴覚皮質内外で高くなった.これらの結果は,VNSが,大脳皮質の局所的な情報処理にも,広域的な情報処理にも影響を及ぼしていることを示唆する.次に,VNSが,聴覚誘発反応に与える影響を調べた.具体的には,ラット聴覚皮質・視床のマルチユニット活動を多点同時計測し,聴知覚に関わる神経活動の特徴として,音誘発反応の再現性と時間分解能を,VNS前後で調べた.その結果,VNSにより,聴覚皮質では周波数選択性が上がり,視床では音圧に対する精度の低下が示唆された.また,刺激音に対する時間分解能は聴覚皮質では低下するが,視床では変化しなかった.これらの結果から,神経修飾物質が,安静時の感覚皮質の神経活動パターンに影響を及ぼしうること,さらには,音刺激に対する誘発反応を変化させることがわかった.
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