細胞内に蓄えられた後天的情報の獲得保持機構を解明することを目的として、心筋細胞の拍動周期に注目し、様々な摂動を与えたときの緩和過程を観察した。今年度は、大学を異動し、研究室を最初から立上げたことから、心筋細胞の培養および実験機器のセットアップから始めた。異動先の大学では動物実験施設が無く、ラットやマウスを使用した研究が不可能であったため、有精卵を用いたニワトリ胚由来心筋細胞を単離することにより、心筋細胞の拍動を観察することを可能にした。そのニワトリ胚由来心筋細胞を電極上に培養し、細胞外電位を記録したところ、良好な細胞外電位波形を確認したが、平面分散培養であったために、電気刺激に対しては応答性を示さなかった。そこで、温度による拍動周期の制御を試みた。その結果、温度を低下させると拍動周期が長くなり、やがて拍動が停止し、温度を上昇させると拍動が再開することが観察できた。この拍動周期は細胞外電位の波形から解析したものであるが、実際の拍動は同時に記録できなかった。そこで、拍動と細胞外電位を同時記録するために、位相差顕微鏡上で培養しながら、細胞外電位を測定するシステムを開発し、心筋1細胞の拍動を解析した。その成果は論文としてJpn. J. Appl. Phys.に発表し、日本生物物理学会やアメリカ細胞生物学会においても発表した。しかし、心筋細胞の細胞外電位波形とイオンチャネルの機能の関係性において、パッチクランプ法と比較した基礎データが不足していることから、後天的情報の定量化の解明には至らなかった。 拍動周期はイオンチャネルの発現量だけでは無く、イオンチャネルの動態等の後天的情報が関与している可能性が示唆されたので、今後はタンパク質の機能と後天的情報の関係性について調べることにより、後天的情報の定量化にチャレンジしていきたいと考えている。
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