研究課題
本申請課題では、生体内に存在し、リン脂質と脂質結合蛋白質(apoA-I)からなる直径10nmのディスク状ナノ粒子、高比重リポ蛋白質(High-Density Lipoprotein, HDL)をベースとして、生体適合性高分子ポリエチレングリコール(PEG)を含まない、真に生体適合性の遺伝子キャリアを開発することを目指している。生体内には、肝実質細胞などHDL受容体を発現する正常細胞が存在する。望みの部位にHDLを集積させるためには、HDLのHDL受容体への親和性を弱める必要がある。HDL受容体によるHDL認識は、主にapoA-Iに依存している。H24年度は、計9種類のapoA-I欠損変異体の遺伝子を構築し、大腸菌発現の有無、HDL形成の有無を調べた。この結果、8種類の欠損変異体を精製取得することに成功し、それらはすべてHDLを形成することを確認した。次に、HDL受容体高発現細胞(CHO-SRBI)への結合活性を指標とした一次スクリーニングの条件検討を行った。全長apoA-Iを含むHDLを蛍光ラベルし、それがCHO-SRBIへ結合すること、さらにその結合量は、未蛍光ラベルHDLを共存させると、濃度依存的に低下することをフローサイトメーターで確認した。さらに検出感度を向上させるため、CHO-SRBIの培養条件の最適化を行い、トリプシンを含まない細胞剥離液を用いて継代すること、播種して2日以上培養した細胞を使用すること、を見いだした。最適化した条件で各apoA-I欠損変異体を含むHDLを評価したところ、C末端のapoA-Iを含むHDLが野生型HDL以上のCHO-SRBI結合活性を示し、逆にC末端を含まないHDLではその結合活性が低下することが示唆された。
3: やや遅れている
全てではないが設計したapoA-I欠損変異体は大腸菌で発現し、高純度で精製取得されている。また意図したとおり、apoA-Iの部分欠損により得られるHDLが野生型HDLとは異なるCHO-SRBI結合活性を示すことも見いだされた。しかし亜鉛フタロシアニン内包による各種HDLのサイズ制御にまでは至っておらず、交付申請書に記載した「研究の目的」の達成度から判断すれば、やや遅れている。これはCHO-SRBIを用いる一次スクリーニングが予想以上に不安定であり、その条件の最適化に時間がかかってしまったためである。
引き続き、各種apoA-I欠損変異体を含むHDLの一次スクリーニングを行い、HDL受容体結合に重要なapoA-I領域を見いだすと共に、亜鉛フタロシアニン内包により様々なサイズのHDLを作製し、同スクリーニングに供する。最もHDL受容体活性の高い、あるいは低いHDLを見いだし、マウス血中滞留性を評価する。さらにコレステロール修飾したsiRNAを見いだされたHDL変異体に内包させ、腫瘍移植マウスに投与する。腫瘍組織とHDL受容体が発現している肝臓との間で投与されたsiRNAの集積量を比較し、抗腫瘍効果を調べる。
申請書に記載したとおり、研究費は主に消耗品の購入に使用する。研究の進捗状況によっては、研究補助員を雇用し、研究の加速を図る。
すべて 2013 2012 その他
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件) 学会発表 (7件) (うち招待講演 3件) 備考 (1件)
Journal of the American Chemical Society
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10.1021/ja3079972
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http://www.murakami.icems.kyoto-u.ac.jp/