研究課題/領域番号 |
24650269
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研究機関 | 芝浦工業大学 |
研究代表者 |
柴田 政廣 芝浦工業大学, システム工学部, 教授 (60158954)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 組織再生 / 血管新生 / 低酸素 / 微小循環 |
研究概要 |
本研究は、組織への酸素供給を最終目的とする血液循環システム自身の適応反応である血管新生メカニズムを明らかにし、再生組織への脈管誘導のための最適条件を決定することを目的とする。研究初年度である本年度は、生体制御システムの一環として種々の酸素環境における微小循環動態およびその循環動態が血管新生に及ぼす影響ををin vivo生体顕微鏡下で調べた。骨格筋毛細血管血流は筋組織酸素分圧が低いとき、すなわち運動時において血流速度と環流毛細血管数ともに増加し、筋酸素分圧の上昇とともに両者は低下することが明らかになった。つぎに創傷治癒過程を慢性的に観察可能なマウス背部微小循環チャンバー法を用い、低酸素環境下と通常酸素環境下における再生組織部位での新生毛細血管数を比較した。その結果、再生組織部位での毛細血管密度は低酸素環境下のほうが通常酸素よりも高かった。しかし組織再生面積は通常酸素環境のほうが大きく、組織再生初期においては、毛細血管からの酸素供給よりも組織周囲の拡散による酸素供給が有効であることが分かった。これは、血管壁での酸素消費が従来考えられていたよりも大きく、組織再生初期における過多な血管新生は酸素供給に不利である可能性が示唆される。本研究は低酸素負荷により血流が増加し、血流増加によるせん断応力が毛細血管新生を亢進させ、その結果組織再生能を向上させるという考えの基に計画されていたが、本年度得られた結果を踏まえ、次年度は周囲からの酸素供給では足りず毛細血管からの酸素供給が必要となる組織再生の程度を求める。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の最終目的は、自己および細胞工学的再生組織への栄養供給のための微小血管誘導法の確立を目指すものである。そのために、①組織周囲酸素環境と微小血管血流、②微小循環血流と血管新生、③血管新生と組織再生能の関係をin vivo生体顕微鏡下において明らかにし、低酸素に対応する生体制御システムの一環としての血管新生メカニズムを検証する。初年度である本年度は、組織酸素環境を任意に調節可能な微小循環観察モデルおよび、生体内血管新生観察モデルとして、ラット・マウス背部皮膚の全層欠損による創傷治癒モデルと背部皮膚透明窓装着血管新生モデルの開発を行った。開発モデルを用い、生体顕微鏡下に組織酸素分圧を変化させたときの微小循環血行と血管壁での酸素消費の応答を分析し、生体適応としての血管新生に対する至適酸素環境を決定するための基礎データは得られた。しかしながら本研究は①低酸素負荷により血流が増加し、②血流増加によるせん断応力が毛細血管新生を亢進させ、その結果③組織再生能を向上させるという考えの基に計画されていたが、③の組織再生能の向上に関する結果は得られなかった。この原因として組織欠損の大きさ、すなわち再生組織部位の大きさの検討が不十分であったことが考えられる。これらの結果を踏まえ、次年度は周囲からの酸素供給では足りず毛細血管からの酸素供給が必要となる組織再生の程度を求める。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度である2年目は、血管新生を最大効率にする酸素環境を整えた状態で自己骨髄細胞を利用した強力な血管新生療法の開発を目標とする。そのために低分子化したコラーゲンに骨髄細胞を組込むと同時に再生部位の酸素分圧を局所的に調節する技術を開発する。実験には創傷治癒遅延モデルや高血圧自然発症ラット、さらには遺伝的糖尿病発症マウス等の使用を計画している。また、微小循環血流を非接触型レーザー血流計により実時間計測し、血行力学的影響も併せて検討する。具体的には以下の計画により研究を遂行する。採取した骨髄細胞を保持し、生体外でviabilityを維持するための環境設定や適切な素材を検討する。血管新生のためには血管が伸展するための足場が必要なため、その役割も兼ねて現時点ではコラーゲンマトリックスの利用を考えているが、それ以外のbiodegenerativeな素材についても最適なものを探求していく。つぎに骨髄細胞を組み込んだmaterialの酸素分圧を制御する方法を考案する。至適酸素分圧をセットポイントとして酸素インジケーターを作成し、最適酸素環境を維持するstrategyを探る。インジケーターにはPd-ポルフィリンなどの酸素感受性プローブまたはClark型電極のように酸化還元の化学反応を利用したシステムを想定している。これらの成果を総括して酸素分圧をコントロールでき、前駆細胞やサイトカインを豊富に含む自己骨髄細胞入りのmaterialを欠損に移植することで生理的に最適な条件での血管新生誘導を行い、自己再生組織のvascularizationを確実にする手法を確立する。
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次年度の研究費の使用計画 |
創傷治癒遅延モデル、高血圧自然発症ラット、遺伝的糖尿病発症マウス等を用いた実験計画を立てそれらの実験動物購入費を初年度に計上していたが、研究計画の若干の変更により、これらの購入予定が次年度になった。また足場用のコラーゲンは市販のものを利用予定でいたが、より再生効率が高くなると思われる低分子コラーゲンの試作が可能となり、その試作費用として次年度使用分に繰り入れた。
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