毛細血管新生と組織再生能の関係を明らかにするため、異なった酸素環境下での創傷治癒過程の微小循環動態観察を行った。創傷の作成は透明窓内組織中央部に生検用パンチで直径1mmの組織欠損を作成した。その後、酸素不透過性窓または透過性窓を装着することで酸素環境を調整しながら欠損修復部位に浸潤する新生血管の違いを中心に7日間観察した。酸素不透過性窓内で治癒したモデルは、酸素環境制御直後から欠損に向かって血管が新生し始め、欠損を修復する再生組織に血管を誘導させながら治癒した。それに対し、酸素透過性窓内の欠損は、血管のない組織のみで欠損を塞ぎ、その後に組織内への血管誘導が起こった。生体内の組織酸素分圧は通常、安静状態では40mmHg前後である。そのためそれ以下の酸素状態に陥った場合、代謝機能維持のため組織自身の適応反応が働き、血管新生が亢進すると考えられるが、この適応反応がin vivo微小循環の経時観察により直接確認できた。さらに創傷治癒時では組織での酸素消費は通常より多くなるため、この血管新生亢進による適応反応はより顕著に表れるのではないかと考えられる。低酸素環境下での創傷治癒過程観察結果で見られた欠損部位への新生血管の浸潤は、本仮説の妥当性を示すもので、早急に酸素を必要とする創傷組織がまずライフラインの血管を構築し、そこから組織再生に必要な酸素を確保しているのではないかと考えられる。一方、高酸素環境では拡散により外気から直接酸素を取り入れられるため、再生初期段階においては必ずしも血管を必要としない。しかし拡散による酸素供給には距離的制限があるため、再生組織が成長していく過程においては限界がある。以上、本研究結果をまとめると、再生医療への応用まで考慮した長期的な血管誘導法としては、早い段階で再生組織に血管網を構築することのできる低酸素環境が有利であるのではないかという結論に至った。
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