従来の歯科用接着剤は歯質と基材を強固に接着することを目的に開発され、矯正用ブラケットの固定に利用されてきた。一方、歯科治療後に接着剤を剥離する技術はこれまで未検討の課題であるため、特定の刺激が加わった際に剥離可能な接着剤の開発は低侵襲的歯科治療に貢献すると考えられる。本課題では、環状分子と線状高分子が数珠状に連なった超分子ポリロタキサンを基盤材料とした剥離可能な歯科用接着剤の開発を検討した。前年度までの研究で、歯質、エナメル質への接着を可能とする接着性官能基を導入したポリロタキサンの合成、特定の刺激により分解応答を示すポリロタキサン型架橋剤の開発、ならびにポリロタキサンの種々レジンモノマーに対する溶解性を確保に成功した。本年度は、これまでの成果を踏襲し、還元分解型ポリロタキサン架橋剤を用いたレジン様硬化体作成の条件最適化、および刺激付与前後の力学特性(ピッカース硬度)について検討した。ポリロタキサン型架橋剤の含有量等の条件を様々検討した結果、重量比で約50%のポリロタキサン架橋剤を添加した硬化体は既存の材料と同程度の強度を有するが、還元剤に浸漬後は約30分の1まで硬度が低下した。比較実験として、膨潤-乾燥状態での硬度の差を測定したが変化量は2分の1程度であり、刺激に応じたポリロタキサン構造の崩壊により激的に硬化体の硬度を低下させることに成功した。以上より、本課題の目的である任意の刺激に応じて力学特性の変化を示す歯科用材料の設計は達成されたと考えられる。今後は、本研究課題で提唱した新たな概念に基づく歯科材料の実用化、低侵襲歯科治療の提供に向けて、工業的、臨床的な視点での材料設計の至適化を進めるとともに、臨床での利用を検討する。
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