研究課題/領域番号 |
24650278
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 滋賀医科大学 |
研究代表者 |
犬伏 俊郎 滋賀医科大学, MR医学総合研究センター, 教授 (20213142)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | ナノダイヤモンド / イオン注入 / ナノ素材 / 金属イオン / 蛍光 / ダイヤモンド |
研究概要 |
ナノダイヤモンドは化学的に安定な材料であり、生体イメージングプローブの母材として最適な材料であることに注目し、化学的な手法では内部あるいは表面に導入することが困難な元素を、イオン注入技術を用いて導入する試みをおこなってきた。その結果、一定の検出感度を有する磁性材料、蛍光材料としての性能をナノダイヤモンドに付与することに成功し、生体プローブ試作への応用を試みるに至っている。しかし、イオン注入の条件としてはこれまでは高ドーズ量に偏っており、ダイヤモンド骨格の構造を保持してナノダイヤモンドとしての性能をできるだけ維持するという観点から、より低ドーズ側にも感度的に有利でありかつ生産性の良い条件が存在する可能性があると期待される。当研究では、低ドーズ領域における磁性・蛍光ナノダイヤモンドを作製するためのイオン注入条件や、その後の熱処理条件を探索し、同時にその原理について明らかにしようとしている。 これまでに実験的手法を探索し、次の点を明らかにした。すなわち、ナノダイヤモンドに対するイオン注入技術を確立した。ナノダイヤモンドを純水中に分散し、スピンコーターを用いて均一な膜厚に塗布する技術を確立し、再現性のよい定量的なイオン注入が可能となった。イオン注入は多段注入法を応用し、損傷を分散させると同時に注入元素がナノダイヤモンドに均一に分布するような手法を編み出した。注入後のナノダイヤモンドの剥離法を確立し、一定の収量で確実に塗布したナノダイヤモンドが回収できるようになった。これらの基盤技術をもとにさらに高機能の磁性や蛍光を持つナノダイヤモンドの創製を目指している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今まで顧みられてこなかった低ドーズイオン注入条件による磁性、蛍光ナノダイヤモンドの創製を目指し、高ドーズ注入条件における磁性の感度、蛍光の発光強度を超える性能が発揮できるか理論的検証を行った。その結果、高機能性ナノダイヤモンドの作製が可能であることが示唆されるとともに、低ドーズであるがゆえに、表面の損傷に起因する溶解度の低下、および、試薬生産のコストという観点からも有利な結果が期待されることも明らかになった。また、蛍光においてはどの発光センターの形成を目指しているかを明確にした上で、その創成のための条件探索といった論理的なアプローチを取っている。また磁性においてはどのような構造の磁性ナノダイヤモンドの創成を目指すか、あるいは創成が可能かというモデルを明確にしたうえで、モデルの検証も含めた条件探索をおこなってきた。 このような理論的アプローチから導かれるナノダイヤモンドに対するイオン注入技術を確立したことにより、再現性のよい定量的なイオン注入が可能となった。その結果、物理的性質が安定した一定の品質のイオン注入ナノダイヤモンドが得られ、その熱処理法と化学処理法を幅広く探索することができた。このような新たなナノダイヤモンド作製の手法を確立したことにより、イオン注入ナノダイヤモンドを真空中においてアニールしたり、また、部分的に大気中酸化、さらには、適当な混酸処理をおこない新しい窒素(N)注入のナノダイヤモンドを得ることができた。このナノダイヤモンドの特筆すべき性質は、台湾のグループが発表しているHeイオン注入ナノダイヤモンドの約10倍の蛍光発光強度を近赤外域に得ており、これまでの実験を再現することになった。
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今後の研究の推進方策 |
初年度で確立した単一イオン種の注入手法に基づき、今後は遷移金属を含む複数のイオン種の注入ナノダイヤモンドを作製してその蛍光発光を観察し、実用になる強度の発光を示す元素(共注入含む)をHeやNの共注入により空孔濃度を制御しつつ抽出するとともに、それらのメカニズムについて実験的な傾向を把握し、その蛍光発光の原理を解明する。 イオン注入のナノダイヤモンドに対する損傷導入とN、Siの同時注入において、発光センター生成の効率と注入条件、熱処理条件の関連性を見極め、発光センター生成のメカニズムをMRIならびに生体蛍光測定装置を用いて定量的に解析する。ここで確立した手法に基づき、遷移金属をはじめとする複数のイオン種の注入における蛍光発光を観察し、実用になる強度の発光を示す元素(共注入含む)を抽出するとともに、それらのメカニズムについて実験的な傾向を把握する。また、有効な磁性原子の濃度とMRI計測における緩和時間の関係を標準試料を用いて明らかにした上で、遷移金属の注入条件、熱処理条件と磁気的な特性の関係を調べ、そのメカニズムと最適な条件に至る論理を確立する。さらに、ナノダイヤモンドに対する低ドーズ注入における磁性、蛍光の付与において、同時に成立させることが可能であるのか、出来ないとすればどのような原理でそれが不可能であるのかを明らかにする。 注入に使用するイオン種はCu、Fe、Co、Mnなどを重点的的に探索する予定でいる。また、これらのイオン注入ナノダイヤモンドの磁性にも着目し、遷移金属イオン注入ナノダイヤモンドの強いMR画像のT2短縮効果を探索する。
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次年度の研究費の使用計画 |
該当なし
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