生体計測に用いることの出来る蛍光プローブの開発を目的として、ナノダイヤモンドにイオン注入の手法を用いて不純物、あるいは損傷(空孔)を効率よく導入して発光センターを形成する研究をおこなった。
はじめ数種類のナノダイヤモンド(製法は高温高圧法、爆発法、天然材料、サイズは平均25nm~50nm)を材料として損傷を導入するためのHe注入、NVセンターの形成を意識してN+Heの共注入、生体計測に有利な赤外領域にシャープな発光特性を持つSiVセンター形成を目指してSi+Heの共注入をおこない、アニールの条件を変えながら最適なイオン注入条件、アニール条件の探索をおこなった。その結果、形成される発光センターは天然ダイヤモンド由来のナノダイヤモンドを除きすべてNVセンターに限られ、材料の種類、サイズにより発光強度が影響されること、N、Siの注入は発光センター形成には影響がないこと、損傷導入のイオン注入には損傷濃度(計算による推定値)において1×1020/cm3くらい(注入量としては1×1014/cm2程度)に最適値があること、アニール温度としては700℃~800℃に最適値があることが見出された。この結果は低ドーズイオン注入により生体計測用のナノダイヤモンド形成が可能であることを実証したものであり、当初の目的の主要な部分は達成した。
しかし任意の元素をイオン注入で導入し、その元素により発光センターを形成する手がかりは得られなかった。そこで、高純度の単結晶および多結晶の基板を入手し、これに対してSi、Ge、Al、Ni、Cu、Au等のイオン注入、アニールをおこなった。この結果、SiおよびGeにおいてシャープな発光分布を持ちかつ強い発光強度を持つ発光センターの形成を確認した。特にGeセンターは未発表の発光センターであり、特許出願をおこなった。その特性、構造、応用分野等の解明は今後の課題である。
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