研究課題/領域番号 |
24650279
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
大谷 亨 神戸大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (10301201)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | ナノバイオ / ナノ材料 / 薬学 / 薬物送達システム / 細胞・組織 / 生体分子 / デンドリマー / プロドラッグ |
研究概要 |
本研究では、これまでに検討してきた水溶性薬物キャリアーの基礎的知見と技術をもとに、細胞内部にのみに見られる低pH環境とグルタチオン転移酵素(GST)に応答して2段階にて抗ガン剤放出場所とタイミングを制御するプロ(プロドラッグ)型インテリジェントナノキャリアを創製することを目的としている。本年度は、GSTにより結合が切断される抗ガン剤プロドラッグとして、GSTの基質であるグルタチオンをスルホニル結合を介してモデル薬物であるp-Nitroanilineに導入した化合物の合成を行った。このプロドラッグは、GSTのチロシン残基による活性メチレンのH+の引き抜きがトリガーとなってβ脱離が起き、脱炭酸を経てモデル薬物が放出される分子設計としている。合成後の質量分析並びに核磁気共鳴(NMR)スペクトル解析の結果、目的とするプロドラッグの合成を確認した。プロドラッグを溶解した緩衝溶液の紫外・可視分光スペクトルは、p-Nitroanilineと比較してブルーシフトしていたことからもプロドラッグとなって結合様式が異なっていることが示された。 ナノキャリアとしての第三世代のポリグリセロールデンドリマー(PGD-G3)の可能性を検討するため、(5-フルオロウラシル(5-Fu))をモデルとした場合の分子間相互作用を19F-NMR解析と蛍光分析により検討した。19F-NMR 滴定の結果、5-FuのスペクトルがPGD-G3濃度増大に伴ってブロード化したことから、5-FuがPGD-G3に内包されることが示唆された。さらに、PGD-G3存在下における5-Fuの蛍光スペクトル変化から、PGD-G3内部のエーテル酸素による5-Fuのイミンプロトンとの相互作用が確認され、キャリアとしての保持作用としては十分ではないが、抗がん剤と相互作用する可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予定してしたGSTに分解可能な結合様式を有するプロドラッグの合成を実施し、ポリグリセロールデンドリマー(PGD)のキャリアとしての可能性の検討を進めることができた。この検討項目は、当初の計画の通りであり、おおむね順調と判断できる。ただし、合成したプロドラッグのGSTによる分解の検討が不十分であり、次年度も引き続き検討する必要がある。また、プロドラッグを内包するナノキャリアについてもPGD以外のキャリアについて検討をすすめる必要がある。その予備実験として、PGDにC18のアルキル基を導入した両親媒性分子を合成し、原子間力顕微鏡から自己組織化の可能性を得ている。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、プロドラッグの合成を進め、細胞内GST存在下での分解性を確保する。これまでは抗がん剤のモデル分子を使用していたが、具体的にアドリアマイシンを用いて合成を進める。プロドラッグを内包するキャリアとしては、高分子ミセルをはじめとして、pH7.4から5.0へ変化(細胞外から細胞内への移行を想定)した際の加水分解可能な結合を有するキャリアを合成し、その細胞内分解挙動をLC-MS、DLS測定から確認する。 プロドラッグを保持したナノキャリアのガン細胞への効果を明らかにするため、NIH-3T3細胞(ガン細胞)を利用した細胞毒性評価を行う。培養したNIH-3T3細胞にプロドラッグを保持したナノキャリアを取り込ませ、細胞内への取り込みを培養液中に残存するナノキャリアのHPLCによる定量から、取り込み効率を算出する。その後、細胞の生存を、テトラゾリウム塩を利用した細胞生存アッセイ(タカラバイオ㈱のキットを利用)により算出 する。このとき対照として、プロドラッグのみ、およびアドリアマイシンのみのケースでも行い、プロドラッグを保持したナノキャリアによる抗ガン効果について検証する。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度の繰越額(約80,000円)を加え、直接経費の所要額は1,180,000円となる。この使用計画内訳は、消耗品費として900,000円、旅費(成果発表・研究調査)として200,000円、その他(機器利用料、論文校閲費)として80,000円、である。
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